急増する子どもの数に追いつけない課題
江東区は昭和末期までに人口40万人を擁する自治体だったが、1997年には約36万8000人まで減少した。そこから再び人口増へと転じ、2003年に大台の40万人を突破。2016年には人口50万人の壁もクリアして、2020年にはご当地ナンバーが認められて江東ナンバーの交付が開始した。
従来、江東区域は足立ナンバーの交付エリアだったが、江東ナンバーとして独立が叶ったのは居住人口が増加したことに伴って自動車の登録台数が増加したからにほかならない。人口を急増させていた頃、筆者は江東区職員や区議会議員といった関係者に取材をしたが、豊洲にタワマンが並ぶようになった当初は人口増を単純に歓迎していた。
しかし、一気に人口が増加したハレーションも起きてしまう。豊洲エリアはタワマンの林立で爆発的に人口を増加させたが、その大部分は子育て中のニューファミリー層だった。それが多子高齢化という江東区独自の現象を生じさせる。子どもの人口が急増する一方で、高齢者人口も増加していたことから、行政では「多子高齢化」と呼ばれる状況となった。
多子高齢化という現象は、ほかの地域では見られなかった行政課題のため、江東区は手をこまねいていた。特に、小学校が足りないという問題は江東区にとって大きな課題になった。
小学校の建設は計画策定から予算の確保、実際に着工してから完成するまでのスケジュールは短く見積もっても5年。通常なら10年前後の歳月を要する。通常なら、江東区で生まれた子が小学校に入学するまでに6年の猶予がある。
義務化した条例で子育て世代を誘引する
しかし、いきなり子育て世帯が転入してくる豊洲では小学校建設に時間的余裕がなく、緊急的な措置として既存の校舎に継ぎ足す形で増築することで凌ぐしかなかった。
その間、江東区は条例で人口増を抑制する“受入困難地区指定制度”を制定。これにより、指定されたエリアは2003~2007年までの4年間にマンションを建設できなくなった。
2007年に条例が失効すると、再びタワマン建設が活発化する。江東区は人口が急増した際にインフラ整備で後れをとった反省から、新しく「タワマンを計画する際は事前に届け出る」ことを条例として制定。
同条例では、「151戸以上の集合住宅を建設する際には保育所などの公共的施設を併設する」ことなどを事業者に義務付けた。2018年からは大規模マンションに一定数のワンルームマンションを整備する義務も加えている。
これらの措置は一定の効果をもたらしたが、しだいに思わぬ作用が起きることになる。前述の「151戸以上の集合住宅を建設する際には保育所などの公共的施設を併設する」を義務付けたことが保育所の充実につながり、かえって子育て世帯から人気を得ることになった。
そのため江東区には再び子育て世帯が流入するようになり、2025年には江東区の人口は約54万1000人にまで達した。

