スパイは歯ぎしりして強制追尾に耐える

トイレに行くなら横に並んで用を足す。

電車に乗るなら並んで吊り革につかまる。

パーティー会場に入るなら、入り口までついていって、「じゃあここで待ってるから」と手を振ってやる。

相手はイライラして食ってかかってくるという。

顔に唾がかかるぐらい詰め寄られて罵られたこともあるそうだ。

そういう時は、「お前とたまたま行く方向が一緒なんだ」と言い返してやる。

ソトイチの捜査員の3割ほどはロシア語に堪能だが、相手も日本語がペラペラなので、罵り合いはたいてい日本語になるそうだ。

あげくつかみ合いの喧嘩に発展することもある。

そうなると、誰かが110番通報して警察官がやってくる。

日本警察パトカー
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警察沙汰になると困るのはスパイのほうだ。

外交特権があるとはいえ、警察沙汰を起こすこと自体が彼らにとっては失態なのだ。

だからスパイは歯ぎしりして強制追尾に耐えるしかない。

摘発が一切公表されずに終わることも

強制追尾を延々と続けた結果、数カ月後にスパイが任期半ばで帰国していった例もある。

これ以上日本にいても任務を果たすことができないと判断されて任を解かれたのだろう。

スパイ事件の摘発は、同じことをやっているかもしれない日本人に対する警告であると同時に、同じことを企んでいるかもしれない外国人に対する警告でもある、とよく言われる。

だから、事件の摘発がマスコミによってアナウンスされるのは基本的に大切なことなのだが、諸般の事情により摘発が一切公表されずに終わることもある。

私が在任していた当時、ある精密機器関連の中堅企業で、社内の機密情報を社員が持ち出している疑いが浮上したことがあった。

その会社が民間の調査会社に依頼して内部調査を進めたところ、社員は先端技術の情報をCDなどに入れて持ち出し、複数の人間に渡しているらしいことがわかる。

そのうち一人は外国人で、調査会社の調査員が後を追ったところ、ロシア通商代表部に入っていくところが目撃された。

その会社は管轄の警察署に相談して、管轄署は外交官らしき外国人が絡むケースなので外事一課に報告を上げてきた。

調査会社が作成した報告書の中に、問題の外国人を撮影した写真もあったので、その正体はすぐ判明した。

ロシアSVRの諜報員と格付けされているロシア大使館の外交官だった。