※本稿は、勝丸円覚『警視庁公安部外事課』(光文社新書)の一部を再編集したものです。
軍服姿の外国人と話す背広姿の日本人男性
201×年、東京都心のホテルの大広間で、欧州某国の大使館による年に一度のナショナル・デーのレセプションが開かれていた。
数百人の来賓が会場を埋め尽くし、壇上ではちょうど友好議員連盟の国会議員が来賓あいさつのスピーチを終えたところだ。
お国自慢の料理や飲み物がテーブルに並び、あちこちで歓談の輪ができ始めている。
私は会場を見渡して、来場した各国の外交官たちの顔ぶれをチェックした。
私は公館連絡の職務のため、こうしたレセプションには時間が許す限り出席することにしていた。
レセプションには主催国の友好国の大使らが顔を揃えるので、顔つなぎするにはうってつけの場所なのだ。
その時、立ち話をしている二人の男が私の目を引いた。
一人は軍服姿の外国人。
その顔は私の頭に焼きついていた。
ロシアのスパイを監視する外事一課の捜査員が隠し撮りした顔写真を閲覧していたからだ。
名はセルゲイ・コワリョフ。
表の肩書はロシア大使館の駐在武官だが、ロシア連邦軍の諜報部門、参謀本部情報総局(略称GRU)の諜報員と目されている男だ。
問題は、コワリョフと話している背広姿の日本人男性だった。
初めて見る顔だったが、関心を引きつけられた理由は直感というしかない。
60年配で姿勢がよく、付き人らしい男性を一人従えて、いかにもひとかどの人物然とした物腰が目についた。
コワリョフと名刺交換をした後、何事か熱心に話しているが、それがどうも初対面の会話には見えないのだ。
たとえば同じ職業の人間同士だと、会ってすぐに共通の関心事項について話し合うことができる。
二人の会話はそんな感じに見えた。
もしかしてあの二人、お互いが何者かをよく知っているのではないか……。
あの男はチェックしたほうがいいようだ――私はそう判断した。

