外事一課の秘匿捜査員に送ったメールの中身

このようなレセプションの会場には各国のスパイがよく顔を出す。

この日も歓談する外交官たちにまじって中国、イランの情報機関から派遣された男たちの姿もあったし、コワリョフのGRUとはライバル関係にあるSVR(ロシア対外情報庁)の諜報員もいた。

そして、スパイたちのいるところ、警視庁公安部外事部門の秘匿捜査員たちが近くで目を光らせている。

ロシアのスパイは外事一課、中国は外事二課、イランは外事三課(2021年の組織改編後は外事四課)の担当だ。

しかし、彼らはレセプションの会場には入れない。

そこで公安部内で唯一入れる私に、会場内での「目配り」が求められるわけだ。

外事一課の同僚からは、

「きょうのレセプションにはGRUとSVRが出席するはずなので、何か気づいたことがあったら連絡してほしい」

と頼まれていた。

私はいったん会場を出て、ホテルの廊下の目立たない場所に移動すると、携帯電話で手早くメールを送信した。

廊下でスマートフォンをチェック
写真=iStock.com/LeoPatrizi
※写真はイメージです

送り先は、どこかこの近くに潜んでいるはずの外事一課の秘匿捜査員だ。

「爺スーツYタイ60白髪短髪B交換 連れ1男40」

こんな文面だった。

大佐級スパイには3人程度のチームが張りつく

「爺」はGRUのG、つまりコワリョフのことで、事前に打ち合わせていた符丁だ。

あとは、コワリョフと話していた男性についての情報を並べたものだ。

スーツ姿で黄色(Yellow)のネクタイ、60代で頭は白髪の短髪。

「B交換」はビジネスカード(名刺)を交換したということ。

連れは40代の男一名――こんな意味だ。

対象が日本人であることは言わずもがななので省いている。

そもそも外事一課がスパイを監視する理由は、スパイと接触する日本人に目を光らせるためなのだ。

コワリョフのような大佐級のスパイには通常、3人程度の秘匿捜査員のチームが張りついている。

監視対象が2人連れの場合は5人チームだったりするのだが、彼らを一般の人が見分けるのはまず無理な話。

それほど背景に溶け込んでいるからだ。