ガス代高騰よりも深刻な「裏方の職人」不足

だが、その足元では今、ものづくりの根幹を揺るがす危機が進行している。

エネルギーコストの高騰だ。ガラスを溶かすためのガス代は月300〜400万円にも上り、今期はさらに200万円単位でのコスト増が見込まれているという。

それ以上に深刻なのが、業界を下支えする「製造インフラ」の枯渇である。連帯窯のレンガを積む専門の職人は、携帯電話で仕事を受けるような一人親方が数人いるだけで、後継者がいない。昨年はガラスを溶かすための「るつぼ(壺)」をタイから輸入したが、タイでさえもそれを作る職人の高齢化が進み、産業を根底で支える裏方たちが消滅の危機に瀕しているのが現状だ。

田島硝子の社員数は50名ほど。20~30代の若手社員の確保は目下の課題だ。
撮影=プレジデントオンライン編集部
田島硝子の社員数は50名ほど。20~30代の若手社員の確保は目下の課題だ。

そこに、職人の高齢化による「技術継承」というソフト面の課題も重くのしかかる。この状況を乗り越えるため、田島硝子では工場に20代から70代までの職人を意図的にバランスよく配置する工夫をしている。

「やっぱり、60代から20代へ直接教えるのは難しいんです。現実には育ち方が違いますから。上の世代は『見て盗む』のが当たり前で、(面と向かって)教わってきていないから教えるのも不慣れだし、一方で今の若手は、理由や手順を丁寧に言われないと動けない部分がある」

7勝8敗でもいい

世代間で「ものづくりを学んできた環境」が根本的に異なることが、技術継承の大きな壁となっている。だからこそ田島硝子では、世代が離れすぎた職人同士のミスマッチを防ぎ、あえて年齢の近い先輩を間に挟んで、段階的に技術を繋いでいくエコシステムを構築しているのだという。

田嶌社長曰く「一つの商品の完成には複数の職人が関わっている」と話す。
撮影=プレジデントオンライン編集部
田嶌社長曰く「一つの商品の完成には複数の職人が関わっている」と話す。

「近くの世代で細かく技術継承していった方がいいんです。例えば『小学校の時の巨人の何番打者が誰だったか』といった何気ない共通認識を持てる世代同士のほうが、言葉のニュアンスも技術も伝わりやすいですから」

かつて、戦後から高度経済成長へと向かう時代、日本の人々は互いの苦労や努力という生き様に共鳴し、機微や粋の感性を育んできた。そこには、作る側にも買う側にも「自分には到達し得ない技術の領域に対するリスペクト」が自然と備わっていたのではないだろうか。

だが、AIの進化が加速し、そうした時代背景や文脈を体得しえない若者が増え続ける現代において、その感性を次世代へ承継していくハードルは上がっている。そんな中、田嶌社長が最優先しているのは、失われた時代を嘆くことではなく、「7勝8敗でもいいから、今日この現場をどう継続させるか」という、着実な毎日の実践なのだという。