「手作り=高値」にはならない
しかしその一方で、本当に圧倒的な技術と熱量を注ぎ込んだ商品に対して、適正な高値がつくわけでもない。
「もっと売れる商品に熱量を乗せて、高く売っていいはずなんです。しかし、手作りの価値が原価にも市場価格にも反映されていない」
市場は「手作りの真の技術的クオリティ」を評価しているのではなく、「ただ手作りであること」ばかりを消費してしまっているのではないか。そんな市場のあり方に、社長は歯痒さを感じている。
量産という土台で職人の技術水準を維持しながら、一部の特別な商品でしっかりと単価(価値)を引き上げる。相反するこの二つの要素をいかにして両立させるかが、田島硝子が直面するジレンマであり、課題の根幹でもあるのだ。
中田英寿の無茶振りが生んだ「二層戦略」
その最適解を探るひとつの試金石となったのが、元サッカー選手で、現在は日本文化のPRを手がける『JAPAN CRAFT SAKE COMPANY』代表の中田英寿氏が依頼したオーダーメイドグラスである。
中田氏が主宰する日本酒イベントでは、当初は他社の既製品グラスが使われていたが、田島硝子との出会いを機にオリジナルグラスの制作へと移行した。感性豊かな中田氏からのオーダーは難易度が高かったというが、田島硝子は何度も試作を重ねてその世界観を具現化してきた。
現在までに4種類のグラスを手掛けているが、予算や技術の制約の中で、形状やガラスの厚みをミリ単位で調整し、全体のバランスを崩すことなく最適解を導き出している。日々の大量生産で培われた「職人の引き出し」がなければ、こうした細かな要求に応え続けることもかなわなかったはずだ。
裏方として地道に量をこなして技術の土台を強固にしつつ、例えば「サッカーW杯のトロフィー」のような、世界に一つしかない頂点のオーダーメイド案件で圧倒的な価値を牽引する。そうして頂点で作られた「世界観と物語」を基準とすることで、大量にある既存の通常商品にも熱量を乗せ、適正な高値で売るための波及効果を生み出していく。
この「量」と「希少性」を連動させる「二層戦略」こそが、先述のジレンマを乗り越えるための田島硝子の生存戦略となり得るのではないだろうか。


