売りたいっていうよりは知ってもらいたい
「昨日できたことが、今日いきなりできなくなることはあり得る。だから毎日、昨日と同じことができるようにしたいと思ってやっているんです。工場にいるときは、別に売れる売れないっていうよりは、毎日『こいつ少し上手くなったな』とか『今日も頑張って仕事してるな』っていうことしかあんまり考えていなくて」
日々、職人と向き合う田嶌社長だが、一歩外の世界に対しては、自らの技術を声高に誇示するようなことはしない。
「売りたいっていうよりは知ってもらいたいんです。東京の路地裏に、こういう泥臭い世界があるということを。知ってもらった上で、見た人たちがどう感じるかですよね。そこで『もう無理だね』という空気感が出たら、それは産業として終わりなんだと思います」
自分には到達し得ない技術の領域に対するリスペクトは、今の社会から、そして買う側からも失われつつある。どれほど高度な技術も、世の中にその存在が知られ、真価を理解されなければ途絶えてしまう。
日本のモノづくりはこのまま大量生産の中国産に負けて終わるのか――。
圧倒的な量をこなし、世代を超えて技をつなぐ田島硝子の職人たちのストイックな日常は、その問いに対する一つの答えを体現している。表面的な意匠をコピーされることはあっても、現場で培われた「暗黙知」と「組織の継承術」だけは決して奪うことはできない。東京の路地裏では今日も、確かな技術が職人から職人へ、途切れることなく繋がれている。


