どこにいても「前前前世」が聞こえる

山口さんがバンドから離れて1年後の2016年8月、映画『君の名は。』が公開された。のちに日本のみならず世界的な大ヒットとなる新海誠監督によるアニメ映画作品は、音楽のほぼすべてをRADWIMPSが担当していた。

映画は最終的な興行成績が250億円という大ヒットを記録。それに伴い主題歌《前前前世》も、ファンの枠を超えて広く注目を浴び、音楽チャート1位を獲得し、RADWIMPS史上最大のヒットナンバーとなる。

当時は日本のどこにいても、《前前前世》や挿入歌が聴こえてくるような状況だった。

「このプロジェクトは僕がバンドを離脱する前から進んでいて、実際にいくつかの曲で僕もドラムのフレーズづくりなどをしていました。でもその後に活動休止してしまったことで、自分としては映画音楽の仕事を、途中で投げ出すようなかたちとなってしまった。申し訳ない気持ちでいっぱいでした」

音楽がどう仕上がったのかは、ずっと気になっていた。山口さんは『君の名は。』の公開初日、映画館へ足を運んだ。スクリーンから響くかつての仲間の音は、言葉が出ないほど圧倒的に美しく、すばらしい出来栄えだった。

ドラマーが脱けてしまうという危機的な状況下で、これほどの音楽をつくり上げたメンバーや、自分の後を任せたドラマー、そして新海誠監督をはじめとする映画スタッフへの心からのリスペクトと感謝が湧いた。山口さん自身も誇らしい気分に浸った。

素直に祝う気持ちにはなれない

しかし、人の心は割り切れないもの。映画が歴史的な大ヒットを記録し、日本のみならず海外へまで広がっていくにつれ、山口さんの心境は変容し歪んでいってしまった。

『君の名は。』の世界的ヒットには喜びと共に孤独感が押し寄せたという。
撮影=高須力
『君の名は。』の世界的ヒットには喜びとともに孤独感が押し寄せたという。

バンド結成時に掲げた「世界に風穴を開けよう!」という目標を実現していくメンバーの姿を、遠くからただ見守ることが、だんだんつらくなっていったのだ。仲間の成功を素直に祝う気持ちにはとうていなれない、身勝手な感情が心内でうごめくのに気づいて愕然とした。

「自分で言い出してバンドから降りたのに、皆の成功を喜べない自分に、呆れ絶望しました」

取り返しのつかない選択をしてしまったんじゃないかという、深い後悔の念が何をしていても拭えない。毎晩就寝しようとするたび、頭の中で『君の名は。』の楽曲が鳴り響いて眠れなかった。

ミュージシャンズ・ジストニアによってドラムが叩けないという事実を受け止め、治そうとするだけでも手一杯なのに、さらに厳しく追い打ちをかけられている気分だった。

「どん底にいるような心理状態が1、2年は続きました。このままではいつか自分が壊れてしまう。考え方や生き方を、何とか根本から変えなければ……と、いつも思い詰めていました」