2010年W杯直前に日本代表を救った「魂」
そして、2010年W杯直前、闘莉王の「魂」がチームを救うことになる。
日本は韓国に0対2で敗れ、岡田武史監督が積み上げてきた“ハイプレス”に疑念が生まれていた。継続か、撤退か。チームは揺れ、川口能活チームキャプテンの提案により、選手ミーティングが開かれることになった。2006年ドイツW杯でチームが崩壊した“悪夢”が頭をよぎる状況だった。
その危機を救ったのが闘莉王だった。
ホテルのリラックスルームで開催された選手ミーティングで、闘莉王は誰よりも先に発言した。『大和魂』(闘莉王著、幻冬舎)によるとこう伝えたという。
「みんな、自分たちはうまい、やればできるんじゃないかという変な自信があるんじゃないのか? おかしな自信で、自分たちの良さを消しているんじゃないのか?」「日本らしいスタイルとか、パスを回すとか、もちろん理想は大切だけど、ヘタくそはヘタくそなりに泥臭くやんないと、必ずやられる」
闘莉王の燃えるようなスピーチは30分近く続いた。
選手ミーティングでは理想派と現実派で意見が割れ、激しい口調で主張する選手もいた。それでも2006年W杯のような衝突にはならなかった。闘莉王が投げかけた「泥臭く戦うべき」という主張は、理想派にも現実派にも納得できるものだったからだ。
さらに2006年W杯を経験している川口能活、中村俊輔、稲本潤一といったベテランが「ここで答えを出す必要はない」とブレーキ役を務め、ミーティングは衝突へと発展せずに終わった。
多様性が組織を強くする
岡田武史監督は勝負勘に優れた指揮官である。選手たちの不安をすぐに感じ取ったのだろう。スイス合宿に入ると方針を180度転換し、カウンターを狙う現実的なサッカーに舵を切った。迷いがなくなったら、あとはやるだけだ。初戦でカメルーンに1対0で競り勝ち、第2戦のオランダ戦は落としたものの、第3戦でデンマークに3対1で完勝してグループリーグ突破を決めた。日本が自国開催以外の大会でベスト16に進んだのは初めてのことだった。
熱帯雨林は種の多様性が豊かで、それが生態系の安定性につながっていると考えられている。ひとつの種がある病気にやられても、他がそれを補って全体のネットワークは揺るがない。
人間の組織も同じである。欧州でプレーしている日本人選手と国内でプレーしている日本人選手が「論理」にとらわれて二項対立に陥ったときに、日系ブラジル人がまったく異なる視点から「魂」の大切さを再認識させた。
日本とブラジルの100年に渡る絆は、日本サッカーにとって大きな財産である。


