昔は「贅沢な甘いお菓子」だったが…
私は香港に住んでいたときに広東式をたくさんもらったが、香港には同じ広東省の潮州から移住してきた人が多く、潮州式の月餅ももらったことがある。潮州式は外側がパイ生地になっていて、中身は緑豆をつぶしたあんやタロイモのあんで一風変わっていた。潮州式月餅をもらって初めて「この人(または両親)は潮州から移住してきたんだ」と知ったこともあった。
中国では四個入り、六個入りなど、きれいな箱に詰めて贈答品としてよく使う。伝統的なメーカーのものは缶入りが多く、外資系ホテルのものは豪華な箱に入っている。
毎年、中秋節が近づくと、会社の取引先や親しい人、親戚に月餅セットを配り、挨拶回りをする習わしがある。日本のような「お中元」「お歳暮」がない中国では、数少ない贈答の季節だ。なので、会社によっては数百個、あるいは数千個単位で菓子店に注文する。社員に月餅セットを配ることもあるし、「月餅券」を配布して、社員はそれを菓子店に持って行き月餅と引き換える方法を採るところもある。
昔なら数少ない「贅沢な甘いお菓子」という位置づけだった月餅だが、十数年前からは「カロリーが高すぎて不健康だ」「油っぽくて食べきれない」などの理由で敬遠されるようになった。取引先からもらった月餅の箱を開けず、そのまま他の人に贈る使い回しも常態化している。何かもらうのはうれしいけれど、内心「月餅だけは遠慮したい」という人が増えた。
まるで時代劇のようなワイロが横行
中秋節の1カ月くらい前から百貨店やショッピングセンター、有名菓子店や中華料理店、コンビニで販売され始め、あちこちで月餅をもらうため、「月餅を見るだけでイヤ」「辟易とする」という人も多い。アイスクリームの「ハーゲンダッツ」やコーヒーチェーンの「スターバックス」などでもおしゃれな月餅を売って若者の気を引こうとしているが、私は若者から「月餅が大好き」という話は一度も聞いたことがない。
月餅といえば、こんな話もある。
習近平国家主席が就任した10年代前半。当時はまだ景気がよく、政府からの締めつけもあまり強くなかったので、月餅を使ったワイロが横行した。
月餅セットの箱の底に現金などをしのばせて贈るという方法だ。まるで日本の時代劇で悪代官にワイロを送る商人がやるような手口だが、そうしたこともあった(現在、この手口はほぼ消滅している。キャッシュレス化して中国人は現金を使用しなくなったからだ)。
中国から日本に月餅は伝わったが、中秋節の贈答品という伝統は伝わらなかった。だが、ここ数年、粽と同様、在日中国人同士で月餅を贈り合うことが増えた。日本に住んでいて、中国の風習が懐かしいからか、在日中国人が増えて、まるで中国にいるときと同じように暮らしているからか、中国で敬遠されている月餅を「もらうとうれしい」「中秋節が近づいてきたことを実感する」と喜ぶ人もいる。

