中国の食文化は、日本人に馴染み深い「町中華」とは大きく異なる。中国事情に詳しいジャーナリストの中島恵さんは「台湾や香港、シンガポールなどでは販売が禁止されていても、中国で伝統的に食べられている食材がある。私も一度だけ食べた、というか、知らないうちに食べていた経験がある」という――。(第2回)
※本稿は、中島恵『中国の回鍋肉にキャベツは使わない』(ウェッジ)の一部を再編集したものです。
香港で流行する「北上消費」とは
ここ数年、香港でよく言われるようになった言葉がある。それは「北上消費」。直訳すれば「北に行って消費すること」だ。
香港と中国の国境にある町は深圳だ。香港は1997年に英国から中国に返還されたので、実際は「国境」ではなく「境界」というのが正しいが、同じ国になったといっても、東京から埼玉県に行くみたいに自由に行き来できるわけではなく、境界にはイミグレーション(出入国審査)がある。
日本人はパスポートを持たないと香港から深圳には行けないし、香港人も「回郷証」という通行証がないと深圳には行けない。
私が香港に留学していた頃、深圳に行くと「ああ、中国にやって来た!」という緊張感が全身を駆け巡り、周囲を警戒しながら歩を進める……という感じだった。当時、深圳に着くと路上で物乞いをする子どもがいて、スリも多かった。おしゃれで洗練された香港とはまったく違う雰囲気だった。
逆に深圳から境界を越えて香港に戻ってくると「ああ、生き返った! 自由の空気だ」と思ったものだった。社会主義国家の中国と資本主義の香港ではこんなにも違うのかと実感した。“空気”は目に見えないが、私と同じように感じた人が多かったと思う。

