66兆円規模の「急成長市場」

私の経験では、これまで中国の町で犬肉が売られていたり、犬肉の料理をメニューで見かけたりしたことは一度もなかった。同じ時期、韓国に行ったときには屋台にハングルで「ケーコギ」(ケーは犬、コギは肉の意味)と書いてあり、びっくりしたが、中国ではそういう経験はない。

中国では伝統的に犬肉が食べられており、とくに吉林省や遼寧省、黒竜江省などの東北地方と、湖南省、雲南省、貴州省、広東省、広西チワン族自治区、江西省など南部で食べる習慣がある。

犬肉は身体を温める効果があるので寒い東北地方で好んで食べられ、南部でも滋養強壮に効果があると言われている。韓国でも中国でも6月の夏至の頃に食べると身体にいいとされている。

有名なのは広西チワン族自治区の玉林市という人口600万人程度の都市で毎年6月に行われる「犬肉祭り」だ。食用の犬の肉を市内のレストランで調理するもので、他の都市からもわざわざ食べに行く人がいるそうだ。丸焼きのまま屋台に並べられたりしているので、北京や上海など大都市の中国人が見たら卒倒するかもしれない。

何しろ、中国ではいま大変なペットブームだ。「2025年中国ペット産業白書」によると、2024年の犬、猫の数は1億2400万頭を超え、市場規模は3兆元(約66兆円)に上る。

Z世代がペットを求める「切ない理由」

上海などでは朝夕に愛犬の散歩をする人をよく見かける。だから、犬の丸焼きなんて想像しただけで気持ちが悪くなるという人が多そうだが、そんなことは一切気にしない、という人も中国にはまだまだ大勢いる。

書影
中島恵『中国の回鍋肉にキャベツは使わない』(ウェッジ)

中国語で犬は「ゴウ」。犬肉は「狗肉ゴウロー」というが、玉林市では「香肉シャンロー」と呼ぶ。由来は不明だが、少しでも犬肉のイメージをよくしようという戦略の可能性もある。

町には「〇×香肉館」など犬肉料理の専門店が数多くあり、堂々と「香肉」の看板を出している。名称を変えれば、何となく罪悪感も消えるのかもしれないが、果たしてどうなんだろう……。

中国で犬や猫をペットにしてかわいがるのは主に都市部に住むZ世代(1995~2009年生まれ)の若者だ。一人っ子でさみしがり屋の若者が、家族同然のように犬や猫をかわいがっており、彼らにとってのペットは「毛孩子マオハイズ」(毛がある子ども)という別名もあるほど。人間は裏切るし、つき合いが面倒だが、ペットは裏切らず、自分を信頼していつも待ってくれている。だから「毛孩子」が大好きなんだそうで、そう聞くと、ちょっと切なくなってくる。

そんな都会の若者は地方に残る犬食文化を嫌悪しているが、長い間続いてきた食文化はそう簡単にはなくなりそうもない。

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