「学校に来られただけで100点」
由比ガ浜中学校が2025年度に開校してから、スタッフたちは迷いの連続だったという。
「遅刻してきたことに対して注意をしなくていいのだろうか」
「学びに向かわずに、横になっている生徒に対してどう声をかけるべきか」
「優しく接し続けるだけでいいのだろうか? ときには、指導が必要では……」
朝、放課後と毎日、スタッフ間で生徒に関する相談が繰り返されていた。岩田分校長は、スタッフたちに「生徒たちは学校に来られただけで100点」と伝え続けている。「学校に来ても勉強はできなかった」「休んだり遊んだりして1日を過ごしてしまった」と、自分を責める子がいるからだ。スタッフ間で話し合いを重ねるなかで、自身の中にある「学校はこうあるべき」「生徒はこうすべき」といった固定概念に意識を向けるようになり、少しずつ取り払われていったという。
「例えば、小学校に通っていなかったら、これまでの教育観であれば『6年間を失った』といった表現をしがちです。でも、彼らは学校には行けていなかったかもしれないけれど、決してその時を『失った』わけではないんです。エネルギーを蓄えながら自分を受け入れる準備をしていたのかもしれないし、誰かとつながる用意をしていた期間なのかもしれない。また、学校に通っている子とは全く異なる学びをしていたかもしれません。子どもはきちんと考えています。だから、タイミングが来たら、ちゃんと伸びていくことができるんです」(岩田分校長)
順調に通うことができていた生徒も、ふと3、4日間休むことがある。スタッフは生徒のことをとことん考え、話を聞きたいと思っているが、彼らには「おはよう」「ごはん食べられている?」とごく普通に接する。多くの子が学校に復帰することを「大ごとにしてほしくない」と感じているからだ。そして、何よりもスタッフ自身が伴走し、じっくり待っていれば、生徒たちは自ら動き出すと信じているからだろう。
教室を飛び出して自然、大人、社会を学ぶ
全国の傾向と同様に鎌倉市も、不登校の子どもたちが増加している。それを受けて、鎌倉市教育委員会は2021年度から体験型の探究プログラム「かまくらULTLA(ウルトラ)プログラム」という子どもたちが自分の学びのクセを活かし主体性をもって学ぶプログラムを実施してきた。学びのフィールドは、地域の森、海、寺、テック企業など多岐にわたる。
そして、2025年に開校した由比ガ浜中学校でも「かまくらULTLAプログラム」のエッセンスを取り入れた新教科「ULTLA」を140時間実施している。不登校の子どもたちは、自宅で過ごす時間が長いため、多様な体験や人との触れ合いが極端に不足する傾向にある。そこで、自宅や教室から飛び出して、さまざまな人と出会い、体験的に学べる「ULTLA」の授業が重視された。
例えば、「ULTLA」では、自分の“好き・得意”に徹底的にこだわる「MY探究」と並行して、地元でとれた魚をさばいたり、塩の研究をしたり、鎌倉ブランドである海藻ポークに関して海藻収集と調理体験をしたりする。その一環として「職業体験」やそれを活かした「由比中マーケット」も開催した。マーケットでは生徒たちが6つのブースを出店し、人と触れ合い、お金を稼ぐ社会体験をした。
岩田分校長は「社会とつながる体験をしてほしいと考えて、生徒と一緒に企画したんです。生徒たちからは『稼ぐっておもしろいね』と声がもれていました」と言う。
売上金をどう使うかも生徒たちで話し合った。「校庭に時計がないのでつけたらどうか」「次のULTLAのプロジェクト費用にしては」など議論が飛び交う。いずれも、生徒が考え、相談し、決定していく。


