原稿料500ドルと引き換えにされる「真実」
このシステムとの遭遇で最も背筋が凍る思いをしたのは、2018年に中国とカナダの間で起きた「人質外交」危機の時だった。バンクーバーで米国の逮捕状に基づきファーウェイの幹部が合法的に逮捕された後、中国はマイケル・コブリグ氏とマイケル・スパバ氏という2人のカナダ人を不当に拘束した。
この対立の最中、ある中国人学者が私宛てにメールで「カナダの立場を解説する記事を北京の雑誌に書かないか」と、500ドルの原稿料を提示してきた。
私は即座に断った。カナダの独立した司法制度に関する私の分析が、検閲官の手を逃れて無傷のまま掲載されることなどあり得ないと分かっていたからだ。
中国共産党はその後3年間にわたり、スパイ容疑で2人のカナダ人を「合法的に」逮捕したと主張し続けた。もし私がその500ドルを受け取っていれば、私の名前は、同胞を人質に取っている習近平を正当化するために利用されていただろう。
断りの連絡をした後、500ドル原稿料で依頼してきた学者からは、「決断を十分に理解し、尊重」と言いつつ、「アジア太平洋地域の経済・戦略情勢というより広い枠組みの中で、貴殿がよりご執筆しやすいテーマや視点がございましたら、ぜひお聞かせいただければ幸いです。貴殿の専門知識やご希望に基づき、内容を完全に調整することも可能です」とのメールが送られてきた。全然懲りていないのだ。
「認知戦」に対抗するための方法
最近、習近平が日本に「軍事化」というレッテルを貼りたがっているが、言うまでもなく、事実は異なる。2025年4月のストックホルム国際平和研究所(SIPRI)のファクトシートによれば、世界的な軍事化を牽引しているのは日本ではない。2024年、日本の防衛費は国内総生産(GDP)のわずか1.4%であり、世界第10位にとどまっている。真の牽引役は米国と中国である。日本の再軍備化というシナリオは、捏造された幻影にすぎない。
だが、その幻影に騙され、習近平のロジックにまんまと乗ってしまった日本や欧米の学者や政治家、メディア関係者は少なくない。また、彼らがSNSなども巧みに駆使して、市井の人々に嘘の情報を流し、信じ込ませる。そうやって民主主義を破壊する工作を常に仕掛けているのだ。
こうした「認知戦」の最前線に立つ日本には対抗策は2つある。
第一に、日本は「ラディカルOSINT(オープンソース・インテリジェンス)」による透明性戦略を採用しなければならない。尖閣諸島で中国海警局の船がフィリピンや日本の船に違法に体当たりした際、中国共産党は即座に、自分たちが攻撃されたと主張する大幅に編集された映像を公開するに違いない。
これに対抗するため、日本の海上保安庁や同盟国のシンクタンクは、事件発生から数時間以内に、ドローンや衛星の未編集の生映像を公開すべきだ。嘘が定着する前に、否定できない経験的な視覚データで情報空間を埋め尽くすことで、日本はプロパガンダを先制攻撃するのだ。西側の民主主義国家は、国内外の嘘と即座に戦うために、この迅速な機密解除モデルを採用しなければならない。
第二に、最近設立された日本ファクトチェックセンター(JFC)のような、制度的な認知防衛メカニズムを構築する必要がある。JFCはテクノロジー企業、学者、市民社会の支援を受けた、横断的なプラットフォームだ。この組織は非党派的なものである。2024年の能登半島地震の際にSNSに溢れた偽の救助動画など、ディープフェイクやAIが生成した偽情報の暴露に重点を置き、党派的な口論ではなく、法医学的なデジタル分析を用いている。
「真実」をめぐる認知の戦争はすでに起きている。もし私たちが、客観的な事実を求める姿勢を放棄すれば、プロパガンダの片棒を担ぐことになるのだ。


