「何を飲むか」が重要
こうした状態の背景にある生理学的メカニズムの一つとして、水分と電解質(ナトリウムなど)のバランスの破綻が関与しています。
体内の水分が失われるとまず血液の総量が減少します。すると、血液は脳や心臓といった生命維持に関わる重要な臓器へ優先的に回されるため、皮膚への血流は低下し、水分の喪失を阻止するために発汗もストップします。その結果、体内の熱を逃すことができなくなり、深部体温が上昇します。
また、細胞の水分バランスの維持や神経・筋肉の働きを支える電解質が失われることで、足がつる、力が入らないなどの症状が生じてきます。
加えて注意が必要なのが、この状態で水分だけを補給し続け、電解質が補われない状態が続いたときです。このような状況が続くと、血液中のナトリウム濃度がさらに薄まることになり、体液バランスの崩れが進行し、強い倦怠感や意識障害を引き起こすことがあります(American College of Sports Medicine, 2007)。
熱中症対策において「水分を補うこと」だけではなく、「何を飲むか」が重要と言われる理由は、ここにあります。
コーヒーや緑茶を飲んでもいい
水分補給の「質」を考える際に、コーヒーや緑茶にはカフェインが含まれているため、「利尿作用があるから熱中症対策としての水分補給には向かない」という話を耳にするかもしれません。しかし、近年のスポーツ医学や労働環境医学の分野では、この定説を見直す動きが出てきています。
もちろん、カフェインには軽度の利尿作用があることは事実です。
ですが、そうした影響が体にあらわれるのは、一度に大量のカフェインを摂取した場合がほとんどであり、健康な成人が日常的に摂取する範囲(おおむね1日あたりのカフェイン摂取量が200~400mg/日、コーヒー2~4杯相当)であれば、体内の水分バランスを大きく崩すほどの影響はないことが示されています(Antonio et al., 2024)。
また、普段からコーヒーや緑茶を飲む習慣がある人では、体が順応して利尿作用が徐々に減少していくこともわかっています(Schill et al., 2025)。
暑い環境下でのカフェイン摂取は、体温の上昇に影響する可能性を示す研究もありますが、最新の研究では、危険な脱水や体温調節のトラブルを直接引き起こす要因とはならなかったと報告されています(Naulleau et al., 2022;Greenberg et al., 2025)。

