「長期休暇後に会社を辞めたくなる」の真相
とはいえ、入社からわずか「2か月」で辞めるかどうかを判断するのは、少し早い気もします。ただ、これに対しても藤田さんは「長期休暇後に『辞めたい』の感情が強まるケースも少なくない」と指摘します。
「入社2か月後はちょうど研修が終わって現場に出る頃。実務が本格的に始まるタイミングですので、こうした感情が湧いてくるのも無理はないでしょう。
初めは難しく感じたことも克服して乗り越えた経験がある人は、『初めは何事もうまくいかないもので、慣れるまではどこに行ったって同じ』と感覚的に分かるので、また違う感情を持つのではないか、と思うのですが。
そもそも、大型連休中は、普段とまるで違う生活を送る人も多いですよね。その状態に慣れたまま通常の生活に戻ると、ギャップが大きい。でも、それは一時的な問題であって、この先ずっと続くものではありません。
ツラい時、不安を感じている時の乗り切り方として、あまり未来を考えないことをお勧めします。今日のツラさが10だとして、それが1年続くとイメージすると3650になる。10なら耐えられても、3650は耐えられない。未来を考えることで、未来の分のストレスまで先取りしてしまうんです。
だから、今日1日の区切りで生きる。もちろん、長期のスケジュールを想定して対応すべき仕事はあると思いますが、少なくとも心持ちの上では、今日1日を精一杯頑張ろう、まずは目の前の1時間の会議を乗り切ろう、と目の前のことにフォーカスする。すると、メンタルを健やかに保ちやすくなります」
「会社を辞めたい」と感じるきっかけは、4つの“欲求不満”
ただ、時期や世代を問わず「会社を辞めたい」という感情は一般的なものです。この「辞めたい」は、一体どのようなメカニズムで湧き上がってくるのでしょうか。
「人間が本能的に抱く欲求は、生存欲求(安心・安全に生きたい/給与や労働環境に関わる)、関係欲求(良い人間関係のもとで働きたい、認められたい)、成長欲求(成長したい、可能性を追求したい)、そして公欲(人に喜んでもらいたい、社会の役に立ちたい)の4つに分類して捉えることができます。
人間の欲求は4つに分類される
● 生存欲求(安心・安全に生きたい)
● 関係欲求(良い人間関係のもとで働きたい、認められたい)
● 成長欲求(成長したい、可能性を追求したい)
● 公欲(人に喜んでもらいたい、社会の役に立ちたい)
人は仕事においてもこの4つの欲求を求めがちで、どれか一つでも満たされなくなると、辞めたいという気持ちが湧いてきます。
生存欲求・関係欲求・成長欲求の3つは、いわば『私欲』――自分が脅かされたくない・いい思いをしたいという欲求です。一方の公欲は、自分の得とは関係なく、純粋に人に喜んでもらいたいという欲求なんですね。
例えば、商品の中身に重大な欠陥があると分かっているのに、会社から売れと言われて売り続ける。売った分インセンティブは入ってくるけれど、お客さんからクレームが来る。そうした働き方に『人として間違っている』と感じて辞める人がいる。給料は十分もらっているのに、です。これが公欲が満たされないことによる退職です。
今の若い世代は、この公欲が他の世代に比べて強いと言われています。出世欲が薄い代わりに、公欲は強い。SDGsのような概念を小学校から学ぶ世代ですし、『世の中のためになることがしたい』と思うのかもしれません。
採用活動でも、『うちに入れば稼げます』というメッセージより、『社会にこれだけ必要とされる仕事です』『お客さまにこれだけ喜ばれる仕事です』と打ち出す方が、若い世代の反応が良くなる印象ですね」
欲求不満を引き起こす、2つの“引き金”
こうした欲求が満たされなくなる引き金については、主に「リアリティショック」と「自己決定理論」という2つのポイントから解釈できる、と藤田さんは言います。
「事前に抱いていた期待と現実とのギャップ、そこから生じるショックのことを『リアリティショック』と呼びます。『こういうスキルが身に付くはず』『こういうポジションが得られるはず』と期待していたけれど、実際はイメージと全然違って、『計画と違う。辞めよう』と思ってしまうケースです。
入社(異動)後の活躍イメージやキャリアビジョンを明確に意識できている人、あと意外にも『プレイヤーとして成績がいい人』はこのショックを受けやすい傾向があります。
プレイヤーとして成績がいい人は効率的かつスピーディーに成果を出せる分、周囲に対する期待値や理想も高く、『そんなやり方より、こっちのやり方が良いだろう』とつい反発してしまうんですね。
自分のやり方がすべてのレイヤーやポジションで有効だとは限らない、という原則を理解できていれば『チーム結束のため上司のやり方に合わせよう』などと判断できるのですが、プレイヤーとしての視点しかないと『ここでは自分の成長は見込めない』と切り捨ててしまう。
こういう方は、それが本人がより成果を出し満たされやすい環境へと移動していくことにつながることもありますが、一方で、転々と職を変えたり、独立して人間関係で痛い目を見たりすることも少なくありません。
また、転職にしろ異動にしろ、それを自分の意思で選んだり異動の意図が説明され納得した結果であるものか、一方的・強制的に選ばされたかで、捉え方はまったく違ってきます。前者であれば『自分が決めたのだから頑張ろう』と前向きに捉えやすい。でも、後者の場合は『環境が悪い、自分はこんなことやりたくなかった』と怒りや不満が湧いてくる。
自分の意思が反映された選択であれば、物事を前向きに捉えようとする心理を『自己決定理論』と呼び、選択の余地なく何かを強制されると反発しようとする機能が働くことを『心理的リアクタンス』と呼びます。
営業のプロセスでも、『この商品を買った方がいいですよ』と一方的に勧められると、お客さんはなかなか警戒心を解かないですよね。だけど、『AとBの商品、どちらがお客さまに向いてると思いますか?』みたいな質問を一つ入れて、『どっちかというとBですかね』『Bがお客さまにフィットすると思っておられるんですね。そういうことであれば、Bについて詳しくお話しさせていただきます』といった話の流れをつくれば、お客さんは自分で選択している分、提案を受け入れやすくなるはずです」
欲求不満を引き起こす「引き金」
● リアリティショック(イメージと実態のギャップに対するネガティブな反応)
● 心理的リアクタンス(ある選択を「自己決定」できていないことによる心理的な反発)
