驚異の「軽さ」以外のテクノロジーも搭載
また『EVO3』には「軽さ」のほかにも競合他社の開発部門を落胆させ、へこませたにちがいない、とっておきの技術をシューズに搭載している。それは、着地時のブレを大幅に少なくする仕様だ。着地時のエネルギーが分散されることなく、大きな推進力となり、それがタイムにも確実に表れてくる。元祖厚底シューズのナイキのお株を奪うような革新的な開発をやり遂げたアディダスは称賛に値するだろう。
ロンドンのサウェの走りを分析すると、30km以降の走りが“非常識”だった。35kmまでの5kmは13分54秒、40kmまでの5kmは13分42秒、ラスト2.195kmを5分51秒。後半のハーフマラソンは2023年のシカゴで世界記録(2時間0分35秒)を樹立したケルヴィン・キプトゥム(ケニア)の59分47秒(レース後半)だけでなく、太田智樹(トヨタ自動車)が保持する日本記録(59分30秒)も大きく上回る59分01秒だった。
『EVO3』を含むシューズの進化によってトレーニング法も変化した。多くの監督が「トレーニングの質が上がった」ことと、「脚へのダメージが少なくなった」ことを挙げている。加えて、カーボンプレート搭載の厚底シューズを履きこなすためのフィジカルトレーニングを取り入れているチームも増加した。シューズ革命は単に「速い」だけでなく、いくつものプラス要素が付随しているのだ。
「サブ2」に貢献した栄養補給法
それからスペシャルドリンクでのエネルギー補給も格段によくなった。サウェのレース当日の朝食は、「パン2枚とハチミツ、それに紅茶」だけだったと発言したことに、多くのアスリートや陸上関係者は衝撃を受けた。市民ランナーを含めて、マラソン前は「炭水化物多め」が常識中の常識だからだ。
実はサウェが重点を置いたのはレース数日前とレース中だった。スウェーデンのイェーテボリ大学の教授らとともに“スポーツ燃料”の製品開発を行うスタートアップ企業『Maurten』のジェルとドリンクを軸に栄養戦略を立て、実行したという。
スタート2日前からカーボローディング(数日前から糖質=炭水化物の摂取量を増やし、体内のエネルギー源=グリコーゲンを多く蓄える食事法)をするだけでなく、レース中はスタートからゴールまで、平均して1時間あたり115g(おにぎり約2個分、レース全体で約4個)の糖質を摂取したという。
これも20年前には考えられない戦略だろう。科学が進歩する限り、人類はまだまだ速くなる。2時間を切った人類の次なる目標は、1時間55分、50分……と未踏の異次元へと高まるのだろうか。
なお、通称「スーパーシューズ」と呼ばれるこの『EVO3』は500ドル(約7万9500円)で4月下旬に世界各地で限定販売され即完売(数千ドルで転売されていると言われる)だったが、日本ではまだ発売されていない。


