それでも中国は「統一」を放棄できない

こうした高コスト構造が存在するにもかかわらず、中国共産党が台湾統一を放棄しないのは、軍事や経済の損得勘定だけでは説明できない理由による。台湾は中国にとって、国家としての成立がいまだ完結していないという現実を、否応なく突きつけ続ける存在なのだ。

中華人民共和国は国共内戦の勝者として1949年に成立した。だが、その敗者であるはずの中華民国政府は台湾に存続し、統治を続けている。この事実そのものが、中国共産党政権にとって、決して解消されることのない歴史的矛盾であり続けてきた。

台湾を放棄するということは、「中国を代表する唯一の正統政府である」という中国共産党の自己定義を自ら崩すことに等しい。台湾問題は損得勘定で計算できる政策目標ではなく、体制の根幹そのものだ。毛沢東が建国を、鄧小平が改革開放を象徴したように、習近平は「統一」をもって自らの時代を完結させようとしてきた。

国内の不満を薄める装置として機能

なおかつ、現在の中国指導部にとって台湾統一を掲げることは、国家の安定した運営において必要不可欠な要素となっている。

台湾は中国沿岸部に対する海上アクセスの要衝であり、安全保障上の現実的意味は重い。歴史的物語を抜きにしても、地政学的要因として放棄する論理的余地は狭い。

そしてより重要なのは、内的な機能である。現在の中国経済は、成長率の鈍化、不動産不況、地方財政の悪化を同時に抱え、若年層の就業機会は制約が強まっている。社会不満は局所的に蓄積しやすい状態にあり、政権はこれを束ねる政治的装置を必要としている。

台湾統一の夢は、その装置として機能してきた。経済の停滞や雇用不安といった個別の不満を、「中華民族の統一」という単一の国家目標に収斂させることで、政権は求心力を維持している。逆に言えば、台湾を諦めることは、不満を束ねる軸を自ら手放すことを意味するのだ。