コタローの形見となった「ねこずかん」

コタローと一緒に暮らすうちに、岡山さんの考え方が前向きに変わっていった。「業績がさらに悪化し、会社が倒産することになっても、心残りがない商品を生みだしたい」と、創業初のオリジナル商品、“猫のイラスト入り印鑑”を発案する。

イラストが得意な社内のスタッフに猫のイラスト案を発注。セレクトした20作品を印面にし、幼少期に図鑑を読みふけった経験から「ねこずかん」と命名した。

自分がモチーフとなった「ねこずかん」の試作品を不思議そうに眺めるコタロー
写真提供=岡田商会
自分がモチーフとなった「ねこずかん」の試作品を不思議そうに眺めるコタロー

「開き直りでした。とにかく猫が好きな人たちに喜んでもらえる商品がつくりたかった。父親には相談していません。反対されるのはわかっていたので、『やっちゃえ』という感じでしたね。説明がつかない、突き動かされる感覚がありました」

こうして、ねこずかんは商品化が進む。しかし、同時に悲しい出来事が起きる。コタローの腎臓の数値が深刻化したのだ。病院を駆け回ったが衰弱は止まらず、コタローは同年11月13日に虹の橋を渡った。

「喪失感が凄まじく、何も手がつかない状態でした」

そうして、結果的にコタローへの手向けにもなった猫デザインの印鑑「ねこずかん」は、彼が他界した約1カ月後の12月26日に発売。顧客へメールマガジンで告知した。

「ねこずかん」の正式リリースを見届けることなく、コタローは永遠の眠りについた
写真提供=岡田商会
「ねこずかん」の正式リリースを見届けることなく、コタローは永遠の眠りについた

入った注文はわずか4本

亡き愛猫の形見となった初めてのオリジナル商品「ねこずかん」。年末年始をはさみ、期待に胸を膨らませながら2016年1月4日に出社した岡山さんを待っていたのは、残酷な注文数だった。

「たった4本しか注文が入ってなかったんです。マニアックな商品なのでそんなに売れないだろうとは思っていましたが、まさかここまでとは……。ショックでした」

失意に沈む岡山さんは、プリザーブドフラワーのアーティストでもある妻から、こんなアドバイスを受ける。

「『プレスリリースを発行してみたら』と勧められたんです。自分の仕事がテレビに取り上げられた経験があったそうで。ところが私は当時『プレスリリースって何?』としか答えられないほど知識がありませんでした」

促されるまま、藁にもすがる思いでプレスリリース配信代行サービスに3万円を支払い、「ねこずかん」のPRを依頼した。配信されたのは1月6日の午後2時過ぎ。すると……。

「社内がざわめき始めたんです。『どうしたの?』と訊くと、『ねこずかんのオーダーが殺到している』と。ネットを見てみると、さまざまなメディアがねこずかんを取りあげてくださっている。Twitter(現:X)では猫好きな方を中心に『待ってました!』『よくぞこんな商品を出してくれた!』と盛り上がっていたんです。びっくりしました。たった一度の配信で、ここまで状況が変わるのかと」