5000本の注文が殺到し社内はパニック状態
初のオリジナル商品の初バズだ。注文の勢いは分刻みの様相を呈し、4本しか売れなかったねこずかんになんと、わずか3日間で5000本もの注文が入った。
「大げさではなく社内が本当にパニックに陥りました。ネットのショッピングモールからも『こんなにも注文が押し寄せて納期は守れるのか。製造体制が整わないまま宣伝するとは何ごとか』と怒られるほどの事件だったんです。それでも私は『値下げやスピード化しなくても、お客様のニーズに応えられるんだ』と嬉しかった。そして、コタローが多くの人の心を動かして、私を暗いトンネルから連れ出してくれたんだと感謝しました」
事態は5000本が売れただけにはとどまらなかった。「猫をあしらった印鑑がネットでバズっている」と有名なTV番組や大手新聞が取り上げ、それを見聞きした人たちからの注文が相次いだ。20種類だったデザインは72種類にまで増大。「犬も印鑑にして」「うさぎも」などのリクエストに応え、「どうぶつずかん」シリーズも発足した。
ねこずかんのおかげで2016年、ついに赤字は解消され、どん底から脱却。会社を支える屋台骨の1つとなったのである。
町工場がダメもとで挑んだ「手塚ずかん」
岡山さんは2017年、さらなる“初”に挑戦する。それがライセンス商品だ。手塚治虫が生み出したキャラクターの印鑑「手塚ずかん」をリリースし、たちまち2000本以上を売り上げたのだ。
「たまたま夫婦で休日に宝塚市の手塚治虫記念館へ遊びに行き、手塚先生の作品にかける情熱に胸を打たれました。そして翌日、ダメもとで手塚プロダクションに『印鑑をつくらせてほしい』と電話したんです。小さな町工場が大それたことをしたものです。
手塚プロダクションとはまったく面識がなく、ライセンス商品を手がけた実績もなかった岡山さん。しかし手塚プロダクションは門前払いせず、「ライセンスイベント(キャラクター、ブランド、エンタメIPの商談に特化した日本最大の展示会)に出展するから来ないか」と誘った。そしてなんと、商談が成立したのだ。
「弊社の印鑑の表現力が決め手の一つとなりました。漫画のキャラクターは目をはじめ表情が命。髪型も大事です。それらが精巧に再現できる。大手に抗うように完全オートメーション化せず、父がこだわり続けた手仕上げの工程を残していたことが契約につながったのです」
漫画やアニメには熱狂的なマニアがいる。マニアは微細な違和感も見逃さない。その批評眼に耐えうる印鑑を製造できる環境が「手塚ずかん」(1本4000円~)の実現に導いた。押し寄せる価格破壊や大量生産、スピード化の波にもだえ苦しんだ日々を、十万馬力の勇気が逆転した瞬間だ。



