生産性を改善する

②と③への対策としては、キャリアトラックのさらなる複線化(理想的には、個人ごとに最適化されたキャリアトラックを許容し得るような柔軟性のある人事制度)が必要である。結局のところ、日本企業が人材面で抱える問題の多くは、生産性と賃金の乖離が長期的に是正されないような組織・賃金体系としての「年功序列」に起因するところが少なくない。

近年注目度が高まった「ジョブ型」雇用について、言葉の普及に伴って批判も増えてきた印象はあるが、方向性としては正しいと思う。少なくとも、生産性と賃金の乖離が今よりは生じにくくなるはずだし、それにより中高年層の賃金水準が生産性見合いの水準に調整される(→「コスパの悪い管理職」や「働かないおじさん」が消滅する)ことはある程度期待できると思う。

このほか、ある程度のFIRE増加を見越した生産性改善も必要である(FIRE云々によらず生産性改善は常に必要だが)。ロボット導入等の省力化投資やAI活用を進めることで、同じアウトプットを産出するための労働投入量を下げる余地はまだまだ大量に残されているはずである。AIやロボットでもできることは徹底してそちらにやらせて、人間は人間にしかできないことをやっていくということが今後は必要になる。

FIRE抑止に政府は介入できるのか

FIRE抑止に向けた政府の役割は何だろうか。先に述べた通り、⑥への対応については一企業ではどうしようもなく、政府の取り組みが重要である。もちろん政府もこの問題を認識し、各種の取り組みを打ってはいるが、残念ながら非婚化のトレンドを反転させることはできていない。とはいえ、放置するにはあまりにも大きな問題であり、諦めるわけにもいかない。この点については、改めて議論することにしたい。

⑦に対して政府が何をすべきかは難しい問題である。株主と従業員のどちらをどの程度重視するかについては企業の判断が尊重されるべきであり、本質的には政府が介入するべき問題ではない。ただ、企業にとって最適な行動を積み上げた結果が一国全体で最適な行動にならない(いわゆる「合成の誤謬ごびゅう」)とすれば、政府が介入することに一定の正当性が生じる。ただ、具体的にどう介入すべきかというのも難しい問題である。

そもそも株主重視の流れは政府が後押ししてきた面も大きい。それによって日本株に対する海外投資家の評価がある程度高まり、株価が最高値を大幅に更新するなどの成果も出ているため、これを巻き戻すのは現実的には難しい。無理に巻き戻そうとすれば外国人投資家の失望とそれによる株価急落を招く可能性がある。

また、一般論として政府は過去の政策が誤りであったことをそう簡単には認めないため、その意味でもハードルが高い。現実的な落としどころは、株主還元促進策をこれ以上追加しないということにしたうえで、従業員への還元を促すような税制面等での優遇措置(既存の「賃上げ促進税制」など)をさらに強化していくといったあたりではないかと思う。

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