FIRE願望につながる7つの要因
また、FIRE願望の高まりにつながっているとみられる要因を下記のようにまとめた。
①日本経済の成長停滞に伴い「面白い仕事」が減っていること
②管理職の労働負担と賃金が釣り合わないケースが増えていること
③「働かないおじさん」が若年層のモチベーションを下げていること
④「JTC」という言葉で揶揄されるような非合理・非効率な企業文化が多く残存していること
⑤NISAなどをきっかけに資産運用に関する知識や意欲が高まったこと
⑥非婚化(単身世帯化)の進展により「人生所要金額」が低下した人が増えたこと
⑦株主が重視される裏側で従業員が軽視されがちになっていること
これらの問題を解決していくこともFIRE抑止効果を持つはずである。ただ、これらのうち①については、残念ながら短期的には解決策がないと思う。敢えて言えばベンチャービジネスがもっと増えるといいのだろうが、これは企業の努力より個人の努力(というかベンチャースピリットやアニマルスピリット)に依存するところが大きい。⑤も基本的には不可逆である。⑥は一国全体では重要な課題だが一企業の取り組みでどうこうできるものではない。
一方、各企業の取り組み次第で解決できる可能性があるのは②、③、④、⑦だろう。特に、④は経営者がその気になればすぐにでも解決に向かうことができるはずである。②と③は④と比べれば若干難しいが、組織・賃金体系の見直しにより生産性と賃金が乖離しにくくすれば解決可能であるため、本質的には対処可能な問題である。
株主か従業員かという問題は難しい
②、③、④、⑦の中で最も解決が難しいのは⑦だろう。コーポレートガバナンス改革や資本市場改革などを背景に、株主還元を重視する流れはかなり強固なものとなっている。少なくとも上場企業については、「株主か従業員か」という二者択一を迫られた際に、株主を捨てて従業員への還元を重視するようになるというのは現実的に想定しにくい。
無論、株主還元と従業員還元は必ずしも排反ではない。株主還元と従業員還元を両立するためには、2010年代後半から多くの有識者が指摘してきた通り、内部留保(利益剰余金)の積み上げペースを緩めればいいだけである。
もちろん、利益剰余金の積み上げによって資本基盤を頑強にすることも重要だが、これまでの内部留保蓄積により少なくとも日本企業全体でみた資本基盤は既に十分な水準に達しているとみられ、今後もハイペースで利益剰余金を積み上げる必要性は大きくないように思える。つまり、利益剰余金に回していた分のいくらかを人件費に回し、同時に配当性向を上げれば、株主還元を維持しつつ労働分配率を引き上げること(を通じた実質賃金の改善)は可能である。
企業の粗利益分配を巡る論点・議論についてより詳しく知りたい方は、例えば、伊丹敬之(2024)『漂流する日本企業』や脇田成(2024)『日本経済の故障箇所』などを参照されたい。
