下準備としての「脱・年功序列」
こう言ってしまえば単純な話だが、これができていない企業が多いのが日本の現状である。特に、年功序列の人事体系が残っている会社では、こうした対応は現実的に難しい。そういう会社の場合、例えば「15年目で同期の50%が課長まで昇進、25年目で同期の20%が部長まで昇進、30年目で同期の5%が役員まで昇進」というように、「昇格標準年次」と「昇格枠」が定められていることがほとんどだと思う(「会社」ではないが、役所がその典型である)。
こうした人事体系の場合、際立って優秀な人材に特別に高い賃金を支払うことが極めて困難である。際立って優秀な人材でも「昇格可能年次」に到達しないと昇格できない(=給料があまり上がらない)一方で、逆に平々凡々な人材でも「この世代はもう課長年次だから」というような年功序列的・横並び的発想で昇格してしまう(=給料が上がってしまう)ということが起こりやすい。
結果として、優秀な人材ほど生産性対比で賃金が割安になるので、生産性見合いの賃金を支払う会社(多くの場合は外資系企業)に転職してしまう可能性が高いだろう。ここ数年、中央省庁などで離職者が急増しているのはこうした要因も影響しているとみられる。
以上をまとめると、FIRE抑止に向けた最もシンプルな対応策は「生産性が高く、辞められると困る人材に限定して、中高年期の賃金を大きく上げる」ということであり、それを実現するための下準備として、人事体系の脱「年功序列」を進めることが必要である。
ネガティブな要素をなくしていく
「年次が上の人が無条件で偉い」という年功序列的あるいは部活的発想は日本社会に深く染みついてしまっているため、脱「年功序列」の難易度は高いだろう。だが、最優秀人材の獲得・係留可否は「優勝劣敗」に直結することが予想されるため、取り組む価値のある課題だと思う。
賃金以外にもやれることはある。そもそもFIRE願望の根底には「仕事・会社」に対するネガティブ意識があるわけなので、そうした意識につながっている要因を一つひとつ潰していくのも有益なはずである。
第1部で、人々の仕事・会社に対するネガティブ意識を形成している要因の例として、「相次ぐ長時間の会議、旧態依然とした業務フロー、過剰な社内調整、終わりなき出世競争、『偉い人』に対する忖度、各種ハラスメント」を挙げた。こうしたネガティブ要因を一つひとつ潰していくことは、会社へのネガティブ意識を低下させることを通じてFIRE抑止につながるのと同時に、多くの場合は生産性向上にもつながるはずで、一石二鳥であるため強力に推し進めていくべきである。
こうした要因を潰し切った会社が次第に「良い会社」と評価され、優秀な人材を集めやすくなるだろう。

