背景を知った上で治療する

飯田は自らの手技を必要以上に誇ることはない。

「最も大切なのは、この患者が我々に何を求めているのか知ること。血管が綺麗になることか、胸の症状がなくなって元気に過ごすことか、家に帰ってゆっくりと家族と過ごす時間を長くとりたいのか。同じ血管の詰まりであっても、患者によって求めているものが違う」

大阪けいさつ病院 放射線技術科係長 紀 裕介さん、(以下同病院)心臓血管外科部長 秦 雅寿さん、循環器内科部長 飯田 修さん、臨床工学科課長補佐 倉田直哉さん

患者とコミュニケーションを取る際、意識しているのは「SDOH」である。SDOHとは「健康の社会的要因」の略で、人々が生まれ、育ち、働き、老いる環境が健康に及ぼす影響の意だ。具体的には経済、教育、地域、労働など、人の営みの背景を指す。

「糖尿病、血圧が高いなどの症状には生活習慣病が関係します。そしてなぜその生活になったのか。生活習慣が悪い理由は何なのか。所得の多寡、両親が揃っているのか。その背景を知った上で治療をしなければならない」

飯田が掲げるのは、自分の大切な人間、両親が受けてほしい治療をチームとして行うことだ。その指標として循環器内科手術件数を日本一とすることを掲げている。心臓を扱うコインの両面である心臓血管外科との連携は不可欠になる。

「ドイツで生き抜いてきた秦先生の技術は凄い。困ったときはすぐに呼んでくれと言われているので心強いですね」

心臓血管外科の長時間労働の常識を変える

秦は心臓血管外科の手術件数を増やすことに加えて、心臓血管外科の常識とされていた長時間労働の働き方を変えることに奮闘している。

「かつては夜の緊急手術には全員が揃って、術後管理が終わるまで帰らないというのが普通でした。時間外手術ならば、ぼくと助手一人で十分。見学も許さない。夜間休日はしっかり休むことを徹底させました」

夕方5時に帰ることを目標にしようと言い続けているんですが、最初は難しかったですと苦笑いする。かつての秦も長時間労働に意義を見出していた医師の一人だったからだ。そして患者一人に一人の担当医がつく主治医制も廃止した。

「全員で患者さんを診ます。毎朝カンファレンス(会議)で患者さんの状態をみんなで共有しています。全員が全ての患者さんの経験を積むことができる。そして早く帰ることができる。そちらのほうがみんなにとっていい。ぼくはすべての患者の管理をしますし、週末に(病棟へ)来ることもあります」

ドイツではトップほど忙しいんですと笑う。