年間1000万台を本気で目指す工場
そして、マスクのコミットメントは口先ではない。Optimus Gen3は2026年1月、カリフォルニア州フリーモントのテスラ工場で量産設計に最適化された生産ラインが稼働を開始した。長期的には、テキサス州オースティンのギガファクトリーに800万平方フィート(約74万平方メートル)のOptimus専用製造施設を建設し、2027年から年間1000万台の生産を目指している。マスク自身、「Optimusはテスラの自動車事業よりも重要な存在になる可能性がある」と公言してきた。
ここで、マスクの哲学の核心を確認しておきたい。
なぜ「人間の形」なのか――マスクは繰り返し、こう答えている。「世界は人間の身体のために設計されている」。人間の手で扱われる道具、人間の通路、人間の作業台。それらを再設計するコストは天文学的である。だから、人間の形をしたロボットを作る方が、遥かに合理的だ。
これは、書籍が示した核心命題と完全に符合する。「人間の形をしているほうが、この世界にすでに存在しているインフラを、そのまま使えるからである」――マスクの哲学の根底には、まさにこの「既存世界との互換性」という冷徹な工学的合理性がある。
「まず身体を磨く」中国型フィジカルAI
太平洋の対岸、中国でも、同じ哲学が独立に育っていた。しかも、2人の天才経営者が、それぞれの言葉で同じ核心を語っている。
1人目は、Unitree創業者・王興興氏である。
中国の名門・浙江大学出身のエンジニアで、四足歩行ロボットの研究開発からスタートした。Unitreeは現在、世界のヒューマノイド出荷台数で2位(2025年、4200台)。2026年春節の「春節聯歓晩会(春晩)」で24台の同時演武を成功させ、世界を驚かせたのも同社である。
その春節演武の直後、王興興氏が語ったのは、哲学そのものだった。
「強靱な体がなければ、いくら賢い頭脳があっても意味がない」
「現時点では本当に汎用性のあるエンボディドAI(身体性を持つ人工知能)は世界にまだ存在していない」
この発言は、書籍が示す核心命題――「フィジカルAIとは『知能より先に身体を制御した者が勝つゲーム』である」――と、寸分違わず一致する。王氏は、生成AIのような「賢い頭脳」がまだ完成していないことを冷静に認めている。だからこそ、「まず身体を磨く」という戦略を採る。中国型フィジカルAIの哲学そのものである。
そして、この哲学は数字でも裏付けられている。2025年、Unitreeのヒューマノイドの売上が、創業以来の主力事業だった四足歩行ロボットの売上を初めて上回り、全体の51%超を占めた。同社のIPO(新規株式公開)申請は、2026年4月9日に上海証券取引所のSTAR市場(中国版ナスダックに相当する科創板)で受理された。最新モデル「R1」は5900ドル(約88万円)からで、テスラOptimus予想価格(2~3万ドル)の約4分の1である。

