北米にあって日本にない“重要な基準”
岡田さんがもう一つ指摘したのが、「気密性能」の違いです。
「ニューヨーク市では、断熱だけでなく、建物がどれくらい“すき間だらけ”かを数値で測定することが多くの建物が義務の対象になっています。Air Leakage Rateという気密性能に関する義務基準も定められています。この点も日本と大きく異なる点です」
「気密性能」とは、建物のすき間の量を示す指標です。いくら断熱材を厚く入れても、建物にすき間が多ければ、暖房した空気は外へ逃げ、冷たい外気が入り込みます。断熱と気密は、セットで初めて意味を持ちます。
米国の多くの州やカナダのブリティッシュコロンビア州などでは、新築住宅の完成時にブロワードア試験と呼ばれる気密測定が義務付けられています。設計時に想定された基準を満たさなければ、使用許可は下りるまでできる限りの修正を要求されます。そのため、手戻りがないように、中間検査、部分的な気密検査をすることが多いです。
つまり、見た目が立派であっても、性能基準を満たさなければ「完成」とは認められないのです。
ところが日本では、気密性能の測定は義務ではありません。それどころか、住宅の省エネ基準にも、気密性能に関する基準は設けられていません。どんなにすき間だらけの住宅であっても、法律上は問題なく販売できてしまうのです。
岡田さんは言います。
「北米では、気密を確保せずに断熱性能だけを語ることはありません。日本では、その重要な部分が制度として担保されていないのです」
この違いは、単なる技術水準の差ではありません。法制度の根本的な違いです。
「高性能住宅」の基準ですら、海外より緩い
さらに岡田さんの話を伺う中で、もう一つ見過ごせない事実が浮かび上がりました。
日本では、省エネ住宅として補助金の対象になるZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)という基準があります。一般には「高性能住宅」の象徴のように扱われており、マンションも一定の基準を満たすと“ZEH-M”として省エネ性能の高いマンションとして売り出されています。
しかし、このZEH基準で求められている断熱性能が諸外国に比べると圧倒的に低いのです。
図は、国土交通省の資料をもとに各国の同程度の暖房が必要な地域の外皮平均熱貫流率(UA値)基準を比較したものです。値が小さいほど高断熱な基準であることを意味します。
日本のZEHの断熱基準は、ほとんどの気候区分(暖房ディグリーデー:暖房の必要度を示す気温指標)で、諸外国の最低基準よりも緩い水準にとどまっています。例えば東京・横浜・大阪などが属する6地域では、韓国、スペイン、イタリア、さらには冬が温暖な米国カリフォルニア州の基準に比べてかなり緩い基準になっています。
さらに、日本で新築住宅に義務付けられている断熱性能(省エネ基準)はとんでもなく緩い基準にとどまっていることが図からお分かりいただけると思います。
つまり、日本では「補助金が出る高性能住宅」であっても、海外では最低基準を満たしていない住宅になってしまうのです。
岡田さんはこう総括します。
「日本の住宅が劣っているのは、技術がないからではありません。性能を問わない制度を、長年選び続けてきた結果です」
この言葉は重いものです。



