「軽症」に思えても、実は「重症」のケース

さて患者側の心得はあるか。

国は「救急車の適正利用」を盛んに呼びかけ、救急車を呼ぶか、病院へ行くかどうかを迷ったら救急相談ダイヤル「♯7119」の活用を勧める。相談ダイヤルでは医師や看護師、救急救命士らが患者の病気や症状を把握しようと努め、救急車を要請したほうがいいかどうかのアドバイスを行う仕組みだ。高齢化に伴って救急車の出動件数が増加しているため、それを抑えようと国は相談ダイヤルを推進するのである。

しかし一見「軽症」に思えても、「実は重症のケース」は山ほどある。二日酔いや風邪のような症状を訴えていた患者が心筋梗塞だった、腰痛があるからと整形外科を受診した患者がその後大動脈解離で死亡してしまった……これまでそういった実例をどれほど聞いただろう。

またよく言われる「安易に救急車を呼ばないでください」と言うのは正論だが、いざ自分や家族が当事者になると、その「安易」の定義が難しい。

「いつもと違う、何かがおかしいと思ったら、躊躇ちゅうちょせずに救急車を呼んでください」と小林院長は言う。

「『軽症で救急車を呼ばないでください』と言うのは間違いです。軽症か重症かは一般の方には判断できませんし、医療経済的にも病が進行する前に病院にかかって血液検査やCT検査などを行ったほうが低コストなんです。診断が遅れれば病気が進み、治癒までに時間がかかって、医師の手も医療費も一層必要になります。もちろん患者さんだってつらい。私が新米医師の頃は、CTやエコーがありませんでしたから、一枚の心電図やレントゲン写真を前に医師が皆で『うーん』と腕組みをして考えていました。私はそれを“医者の権威”と呼んでいます。いかにも知ったような顔をして仕事をしてね(笑)。でも今はそんなことに時間をかける時代ではないのです。患者さんはおかしいと思ったら早めに医療機関を受診する。治療者側は患者さんの万が一のことや、幸せを考えたら、まずはスピーディに客観的検査を行うことが重要です」

つまり小林院長が言いたいのはこういうことだ。

素人が「軽症」と判断しても、実際には重症が隠れていることが珍しくない。しかも早い段階で受診すれば、CTやエコーで迅速に診断がつき、治療期間も医療費も抑えられる。逆に我慢して受診が遅れれば、病は進行し、患者本人も医療現場もより大きな負担を抱える。「安易に呼ぶな」という正論が、結果的に患者の命と医療経済の両方を損なう。それが「『軽症で救急車を呼ぶな』は間違い」と語る、「本当の理由」なのだ。

同院ERの医師もこう言った。

「自分がつらい、救急車が必要だ、と思ったときは救急車を呼んでいいんです。それが結果的に軽症であっても」

それらの言葉を聞き、私はほっとした気持ちになった。軽症の陰に重症が隠れていることも多い――読者はそれを頭にとどめてほしいと思う。

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