赤字になるわけがない

「断らないマインドはERだけでなく、各科の医師全員が持っています。“全員野球”ですよ」と小林院長。

「そうでなければコロナ禍も乗り越えられませんでした。救急というのはあくまで入り口。患者さんにとっての出口とは、症状の原因がわかるだけでなく、病気が治ることでしょう。それには各科医師の力、専門性が欠かせません。各科が『こちらは入院患者でいっぱいだから(救急患者を回されても)受け入れられない』と言われれば、ERで患者を受け入れられなくなってしまう。けれども当院では絶対に、どこからもそういう声があがりません」(小林院長、以下同)

湘南鎌倉総合病院の小林修三院長
筆者撮影
湘南鎌倉総合病院の小林修三院長

救急医療で診断や初期治療を行い、専門医に引き継ぐ。その連携が同院はスムーズなのだ。これにはリーダーの下、皆が同じ方向を向く必要がある。救急患者を受け入れられない病院の中には、救急医と各科専門医が足を引っ張り合ったり、孤立する科があったりして、チームワークが機能していないことが少なくない。

同院では看護師の存在も大きい。

「救急患者を受け入れるベッドを空けられるのは、看護師さんの働きです。どの病棟で何時に空きが出るのか(患者が退院するのか)をすべて把握している。時にはオペが遅れたり早まったりして、空き状況が予定通りにいかない中でも『必ず受け入れベッドをつくる』というコントロール力が素晴らしい。午前中に患者さんが退院したら、そのベッドに午後は違う患者さんが入院してきますから、病床稼働率は常に100%以上。これで赤字になるわけがないでしょう」

看護師の補助業務を行う救急救命士もいる。他院では救急車の患者受け入れや、転院する必要が生じた場合の電話応対などを医師や看護師が担うことが多いが、同院では救急救命士が行うのだ。だから医師や看護師は自らの業務に専念できる。小林院長も「医師以外の職種に任せられる仕事をあぶり出し、タスクシフト・タスクシェアに力を入れた」と話す。

救急医の「完全3交代制」を実現

さらに同院ERでは13年から救急医の「完全3交代制」を実現している。どの時間帯も8~9時間勤務が基本で、終業時間がきたら自分が診察した患者はなるべくチームに託す。

私は全国の救急医療現場で、24時間、時には48時間連続勤務というような過酷な労働環境に身を置く救急医を目にしてきた。取材当時、もし私が患者なら、これほど疲労困憊で判断力が鈍った医師に診察してほしくないと思った。シフト制の導入は、医師はもちろん、患者の命も守ることになる。

とはいえ「医師の働き方改革」による影響はないのか? と問うと、「もちろん大変です」と小林院長が答える。

「けれども思い出されるのは、(徳洲会創設者の)徳田虎雄先生の言葉です。徳田先生は『アマは言い訳する。プロはやり方を考える。お前らプロだろ、考えろ』とよく言っていました。労働時間の関係で自分が携われない場面があっても別の人に任せるとか、何かしら方法はあるでしょう。例えば心臓血管外科では長丁場の手術がある関係で時間外労働が増えやすい。私が現場に労働時間を短くできるかを尋ねると、当院の医師は『これまで3人で行っていたオペを2人にし、残り1人が別の仕事をすればいい』と言いました。そうすると全体の労働時間が短くなります。一人一人が自分の仕事にプロ意識や自信があれば、自ずと業務の効率性が高まるのだと感じました」

すべての患者を受け入れるという熱い思いとプロ意識、加えてチームワーク、それぞれが自分の仕事に専念できるという人の配置――湘南鎌倉総合病院の医療体制は、他業種のモデルにもなると感じた。