人毛に近づけるための終わらない試行錯誤

では、摂氏何度の水槽に入れるのがいいのか。どれくらい伸ばせば理想の太さになるのか。これまた試行錯誤のくり返しだったという。

「色をどうするか、というのも大きな課題だったようです。あとから色をつけて染めるという方法もありますが、さまざまな加工の過程で色が落ちてしまったりする。カールさせたり、シャンプーしたりすると落ちてしまう。最終的に、細かく加工した原材料のチップを使い、その組み合わせによって、さまざまな色合いを生み出していくことになるんです」

さらに、人毛に近い風合いをいかに実現するかにも苦心する。

やがて表面に凸凹をつけ、キューティクルを持った人毛のような人工毛髪の開発に成功した。開発を始めてから実に8年、1991年のことだ。

ブラシ1本でセットが仕上がる形状保持性を持ち、熱に強く、強度を持つ人工毛髪として世界的な特許も取得する。「サイバーヘア」と名付けられた。

だが、アデランスはまだ満足していなかった。

「社内で、ドライヤーなどで手を加えたいという意見が挙がったんです。それで、次は材料そのものの構造に挑みました。サイバーヘアは1本丸ごと同じ材料でできているんですが、人工毛髪の構造そのものから開発することを考えたんです」

産学連携で果たした画期的な人工毛髪

サイバーヘアから15年。キューティクルの凸凹構造、毛皮質、毛髄質という3つの構造を模した、極めて人毛に近い形態の人工毛髪を作り出した。2006年の「バイタルヘア」だ。

「芯とさやで別の材料を使う鞘芯構造で、人毛の物性変化を再現したんです。これによって、硬さや水分の吸収率が変わりました。濡れたときに人毛と同じように濡れるし、乾いたときには同じように乾く。カールも濡れると伸びるし、乾くと戻る、独自の画期的な人工毛髪ができたんです」

これは大学機関との産学連携による研究結果でもあった。これで、ドライヤーの熱によって、ヘアスタイルを変えることができるようになった。そして、洗えば元のスタイルに戻る。当時、極めて人毛に近い性質を持っているインテリジェントヘアは、世界24カ国で特許を取得した。

だが、まだまだアデランスは満足しないのである。

人工毛髪の素材をポリステルではなく、ナイロンにしたことによる課題が一つあったのだ。それが、ボリューム感だった。

「ナイロンだと、どうしてもポリエステルのボリューム感に勝てなかったんです。では、ボリューム感も備えるためにはどうすればいいのか、とまた、いろんな試行錯誤が始まるんです」

ボリューム感はポリエステルが持っている。そこで、ナイロンにポリエステルを組み合わせることを考えた。

しかし、ポリエステルでは自然なツヤを出すことができない。2種類の材料をうまく使って、理想のツヤとボリューム感を両立させるべく、またしても奮闘が始まる。混合して製造するアイデアはあっても、簡単にはうまくはいかなかった。

そんなとき、思わぬことが起きた。

工学系大学院で学び、商品開発に携わる佐藤さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
工学系大学院で学び、商品開発に携わる佐藤さん