1社に依存しない「大阪お笑いの文化」を
加藤さんの挑戦は、まさにこの「新しいエンジン」の創出だ。1社が背負いすぎている「大阪のエンタメを守る」という重責を、民間の多様なプレイヤーが分担できる構造を作ること。
加藤さんは「この巨大なブランドが築いてきた信頼は素晴らしいし、自身も大ファンだ」と語る一方、その「外側」にある才能が正当に評価される仕組みの必要性を説いている。
「看板に頼らず、純粋に『面白いかどうか』で価値が決定される多様な評価軸が大阪に根付くことが、大阪のお笑い文化の先細りを食い止めるために必要です。巨大企業がそのブランドと伝統を守り抜く一方で、私たちのようなインディーズが、より自由でニッチな市場を開拓し、新しいプレイヤーとファン層を掘り起こす。そうすることで、1社だけに依存しない、より強固でしなやかな『大阪お笑いの文化』が構築できるはずだ」と加藤さんは語る。
現在、楽屋Aにはお笑いを志す学生や、社会人、フリー芸人と、彼らの自由な芸風を好む観客たちが集まり、少しずつその大きな目標に向かって着実に歩みを進めている。常連芸人の「ボニーボニー」はM-1の3回戦常連、「ハヤイカガヤイ」はTHE Wの2025年大会で準決勝へ進出をした。よく楽屋Aの舞台に立っている「栗尾真理」はR-1グランプリ2026年で準決勝進出など、賞レースなどで名を残すようになってきている。
運営はギリギリ、それでも続ける理由
また、学生お笑いに関しても東京と比較して10年の後れがあるにもかかわらず、近畿大学の「クジラ会館」が「大学生M-1グランプリ」の2025年大会で準優勝、大学芸会個人戦2025審査員賞を獲得したり、大学芸会主催の全国一面白いサークルを決定するNOROSHIでも近畿大学の「こども帝国」が決勝に残るなど、肩を並べて戦えるところまできている。それもこれも持ち出しなしでライブを打てる楽屋Aという存在が大きいと学生芸人たちも口々に言う。
それでも劇場の運営は東京と比較して苦しい。東京は数年先までのスケジュールが埋まるのに対して、大阪はプレイヤーの少なさから来月のスケジュールすら余裕がある。楽屋Aは赤字ではないものの、毎月の利益は劇場がギリギリ運営できるラインしか儲けはない。
その現実を突き付けられながらも「お笑い市場の中心地を大阪に引き戻す」という高い目標を掲げ、1社だけに依存しない無数の小さなエンジンが自律的に回転するエコシステムを作れるよう加藤さんは営業も、当日のライブ運営もすべて引き受け、芸人が芸を磨くことだけに集中できるよう劇場を運営している。
大阪が再び真の「笑いの都」として輝きを取り戻せるかどうかは、楽屋Aを含めた多様なエンジンが、どれだけ増えて、力強く回り始めるかにかかっているのではないだろうか。


