出番1回300円、バイトで食いつなぐ生活
実際に芸歴2年の元芸人が「1回の劇場出番では300円と、チケットを売った枚数のいくらかのキックバックがあるだけ」と言うのを耳にしたことがある。その300円のために芸人はネタを書き、練習し、生活のためのアルバイトのシフトを削って出演する。
「やりたくてやっているけど、バイトのほうがお金がもらえる。生活という現実を目の当たりにすると、あの金額では不満が出てきてしまう」とため息をついていた。
加藤さんは「評価され劇場入りしている芸人も2500円しかもらえない。当日の劇場運営のスタッフの人件費や運営費を考えたら、どうしたってこれくらいしか渡せないことは理解できる」と、この構造を理解しながらも、「ここをなんとかしたいと思った」と言う。
このままでは、芸人は芸を磨く時間を削って、生活のためのアルバイトをし続けなければならない。この状況を打破したい。そのために、楽屋Aは会場費をゼロに設定。その代わりに、チケットの売り上げを劇場と演者で分配する方法を採用した。
音響や照明、受け付けといった運営スタッフも劇場側が用意する。つまり、芸人は赤字のリスクを負うことなく、純粋にコンテンツの質だけで勝負できる。まさに芸人ファーストな運営方法を取っている。
実は東京のほうが圧倒的に盛り上がっている
加藤さんが身を削った運営をするのには理由があった。「大阪はお笑いの中心地」というイメージが広く浸透しているが、実際は東京のほうが圧倒的に盛り上がっている。その現状に加藤さんは寂しさを抱いている。
現在、大阪のお笑い界は、吉本興業が企画・制作・劇場運営・マネジメント・教育のすべてを内製化し、完結させている。100年を超える歴史が築いたこの強靭なスタイルは、一見すると鉄壁に見えるものの、この「1社完結」の構造が、市場がさらに拡大していくうえでの、構造的なボトルネックとなっている側面も否定できない。
対して東京は、吉本興業以外にも無数の中小事務所やフリーのプロデューサーという「エンジン(企画の発生源)」が乱立している。誰かが新しい企画を思い立てば、それが独立した仕事として動き出す自由度が、あちこちである。
「大阪はほぼ巨大なひとつのエンジンしか稼働していない。いくらその巨大組織のマネージャーが優秀でも、一人ひとりが抱えるタスクには限界があり、物理的に人が足りていないのが実状。その組織のキャパシティや決裁権者の思考の枠が、そのまま『大阪のお笑い市場の天井』になってしまっている」と加藤さんは語る。

