歯科衛生士の76.4%は転職経験アリ
人材不足による売り手市場のなかで、転職がますます盛んになっています。
私達の業界では、例えば歯科衛生士の場合、勤務先を変更した経験が1回以上ある人は全体の76.4%、複数回ある人は55.0%に上っています(※1)。
私が開業した10年前、転職はまだ現在ほど盛んではありませんでしたが、その後のコロナ禍を機に、一気に増えたように思います。
YouTubeやSNSの視聴時間が著しく増加し、ブラック企業の特徴をまとめた動画や、若くても高所得が可能な情報など、転職を促すような刺激的な情報が数多く拡散されるようになりました。
このような時代にスタッフに離職されやすいのは、どのような医院でしょうか。
真っ先に挙げられるのは、労働環境が十分整備されていない医院です。医師や歯科医師の多くは、労働基準法や就業規則といった労働法規を学ぶ機会がほとんどないまま開業します。
そのため、就業規則がいい加減だったり、労働時間管理が曖昧だったりと、一般企業では当たり前の「最低限のスタートライン」に立てていない医院が少なくありません。そのような職場で離職者が出るのは当然のことです。
離職を防ぐには、若い世代の考え方を理解することも大切です。現在の若い世代は、院長の多くが属する昭和世代とは異なる価値観で育っています。
親や教師に怒られた経験が少なく、SNSで常に「いいね」をもらい続けて成長した彼らに、背中を見て学ばせるような昭和の指導をしても通用しません。
研修の一環としてSNSの仕組みを解説
上司との関係においてもフラットな関係性を求め、上の世代の価値観を押し付けられることを嫌います。厳しく叱れば、すぐ退職されてしまうかもしれません。
また、彼らはデジタルネイティブ世代として、膨大な情報を瞬時にキャッチする能力をもっています。お金のために働くという価値観が薄れ、仕事を通じたやりがいや成長の機会が得られるか、企業の理念に共鳴出来るか、といった点を重視します。
こうした傾向を踏まえて、院内の仕組みやコミュニケーションなどを見直すことも大切です。
私の経営する医療法人では、労働環境の整備はもちろんのこと、日頃からフラットなコミュニケーションを心がけるとともに、現在の若い世代に合わせて教育システムを見直しました。
その1つに、SNSへの対応があります。彼らにとってSNSの影響は非常に大きく、同世代のインフルエンサーなどの投稿を見て、自分の現状を否定的に捉え、なかには転職してしまう若者もいます。
そこで私は、研修の一環としてSNSの仕組みについて必ず説明するようにしています。SNSに投稿する情報が商品として扱われている現実を説明したうえで、自己肯定感を求めてSNSに没頭するのは時間の無駄であり、むしろ心の健康を害する可能性が高いことを伝え「なるべく見ないほうが心は安定する」とアドバイスするようにしています。
労働環境を整備し、スタッフの価値観を理解し、教育の仕組みを構築すること。これらが出来ていない医院は、これからの時代を生き延びることは難しいでしょう。
※1 「日本歯科衛生士の勤務実態調査報告書」令和2年3月 公益社団法人 日本歯科衛生士

