「赤ちゃんいのちのバトン」と命名
「赤ちゃんの尊い命を守りたいというのは当然の気持ちやないですか」
やや強い口調で語ったのは千代松大耕氏、52歳。大阪府泉佐野市の市長だ。日本で三番目の赤ちゃんポストの設置に名乗りをあげた市長に話を聞くために、3月中旬、泉佐野市役所の市長室を訪ねた際のひとコマだ。
千代松市長が3月の定例議会に提出した予算案は可決された。市内にある地方独立行政法人りんくう総合医療センターと連携し、2026年度中の赤ちゃんポストの運用を目指している。病院の担当者だけに身元情報を明かして出産する「内密出産」の受け入れも同時に検討している。
赤ちゃんポストとは、赤ちゃんを匿名で預け入れることのできる仕組みのこと。泉佐野市では「赤ちゃんいのちのバトン」と命名された。市民からは「赤ちゃんポスト」という一般名称での報道に抗議する連絡があったものの、好意的な関心が集まる。ある地元企業は1000万円の寄付を申し出た。
大阪でも起きた痛ましい遺棄事件
2025年夏には、大阪市中心部の扇町公園で、赤ちゃんの死体が見つかる事件が起きている。泉佐野市からは北へ電車で40分ほどの場所だった。
それから約半年経った取材当日、朝の公園を、ベビーカーを引く若い母親や、犬を散歩させる人たちが行き交っていた。緑の木陰で安らかに眠ってほしいと願ってこの公園に埋めたと、女性は警察の取り調べで話したという。
現在、熊本市の慈恵病院と東京都墨田区にある賛育会病院が赤ちゃんポストと内密出産を運用している。2007年に先駆けて運用を始めた慈恵病院には、およそ200人の赤ちゃんが預け入れられた。その中には関西圏から連れてこられた赤ちゃんもいた。
泉佐野市に赤ちゃんポストがつくられれば、扇町公園に赤ちゃんを埋めた女性のような孤立した妊娠女性が、遠く離れた九州や関東を目指さずとも赤ちゃんを託すことができるようになる。内密出産も可能になるかもしれない。
だが、赤ちゃんポストは構造的な矛盾を抱えている。これをどうクリアするのかについて泉佐野市の方策を聞くことが取材の目的だった。


