トップダウンで「全国初」の施策を進める

だが、千代松市長はこうも言った。

「慈恵病院さんと熊本市の間に難しいことがあったのかもしれません。でも、僕ら泉佐野市は行政ではあっても、赤ちゃんポストを運営する立場であり、熊本市よりも慈恵病院さんの立場に近い。実際、民間病院さんが取り組まれていることを、行政だからできないという話にはならないと思います」

福祉政策担当参事・熊田佳記氏は、調整が難しいことを承知しているとしたうえで、「女性の匿名性は守ります」と明言した。

自治体運営に企業会計的な手法を導入して財政を立て直した千代松氏が、尊い赤ちゃんの命を守るのは当たり前だと、職員にハッパをかけ、スクラムで前進する。

冒頭の言葉以上の動機を聞くことはできなかったが、著書に「母が女手ひとつで育ててくれた」というくだりを見つけた〔『型破りの自治体経営』(青林堂)〕。こどもの命への特別な思いへの原点を探るとすれば、この生い立ちにもあるのかもしれない。

赤ちゃんポストがいらなくなる社会が理想

19年前、熊本で赤ちゃんポストが始まったとき、赤ちゃんポストに預け入れる女性は「赤ちゃんの養育を放棄した加害者」として整理された。だが、女性の背景にある被虐待や愛着障害、貧困といった家族や社会の構造的な問題は、19年の間に可視化が進んだ。

女性は赤ちゃんポストに赤ちゃんを連れてくる時点で、すでに家族や社会から熾烈なネグレクトを受けた被害者でもある。この「もうひとつの事実」が、認識されつつある。

与党自民党でもプロジェクトチームが発足し、4月には議員団が慈恵病院を視察した。法学者や研究者へのヒアリング、蓮田氏、大西一史熊本市長の講演実施ののち、5月ごろをめどに論点を整理するという。

社会は、赤ちゃんポストや内密出産を選択する前段階で、孤立した妊婦女性が安心して頼れるセイフティネットをつくることができずにここまできた。このことを踏まえ、泉佐野市と大阪府はどのような仕組みを構築するだろうか。詳細が明らかになるまでに、もう少し時間が必要なようだ。

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