奈良公園のシカの頭数はやっぱり多い
ただ、奈良のシカは「野生動物」であるから、「シカやん」のようにA・B地区を出て歩き回る個体も珍しくない。A地区からC地区へ、B地区からD地区へと移動するシカも存在する、ということだ。であればこれまで神鹿として手厚い保護を受けてきたシカが、野生動物としての習性を発揮して遠出したばかりに捕獲対象になることも考えられる。
立澤氏はシカやんは「おそらくA地区由来の個体だと推察される」と見立てた上で、個体の移動の詳しい経路はわからない、とする。
「シカやんが生存競争に負けたのではないにしても、そもそも奈良公園に限らず、A・B地区に生息する奈良のシカの頭数が飽和状態にあるのは紛れもない事実。これだけ頭数が増えると、奈良市外に出ていく個体が出てくるのも不思議ではない。しかも、数年後に帰ってくるオスジカもいる。詳しい個体調査のためにはやはりマイクロチップと発信機を活用して追跡調査をするしかない」(立澤氏)
奈良公園のシカは人間に合わせて移動する
「神鹿」として長年保護されてきた天然記念物、という側面がありながら、奈良のシカはペットではなく、他地域と同じニホンジカという野生動物である――。
かつて「ふれあい」を推奨した奈良県が今、「野生動物」を強調するのは、昨今の人間による不適切な接触行為に加え、人間の食べ物を与えるなどシカを「ペット」と勘違いする人が増えてきた、という問題意識があるからだ。
実際、奈良公園はインバウンドの成功もあり連日観光客で賑わっているが、それに伴いシカの人間依存度も高まっている。言うまでもなく、人間は奈良のシカに「鹿せんべい」を与えている。
奈良県が2025年12月から2026年3月にかけてカメラでシカの動向を調べたところ、奈良のシカが観光客にあわせて移動していることが推察された。観光客は午前中奈良公園に滞在し、午後からは春日大社に向かう、というパターンが多いとされるが、シカも同様、人間についていくような行動を示したとされる。
例がないレベルの“人間依存”
長年シカを研究してきた立澤氏も近年のシカの人間依存は「例がないレベル」だと危機感を強める。
「現在14歳ほどの中年の母ジカに発信器をつけて7年間追跡している。彼女は若いときは比較的人と距離を置いて子育てをしていたが、今では『鹿せんべい』をもらうべく、人間を追い回すようになってしまった。奈良公園のシカの主食はシバとドングリだが、それと比べて魅力的でないはずの鹿せんべいを求めてしまう。人間に食べ物をもらう癖がついてしまったのだろう」

