ユニクロを支える2つのポリシー

この時期のABC改革(All Better Change)の中心は製販調整で、本部が「週単位」で全店の売上速報を確認し、生産計画を柔軟に変更する仕組みを構築しました。売れているものは即座に追加生産をかけ、売れていないものは早めに値下げして売り切る方式です。その結果、「売れ行きに合わせて作る」という、現代ユニクロのサプライチェーンの基礎が確立されました。

ユニクロはトレンドを追うのではなく、「いつでも、どこでも、誰でも」着られる服を、ベーシックアイテムに絞って展開しています。「高品質で安い」「着るパーツ」としての服を提供することがユニクロのミッションです。このポリシーでアンダーウェアを展開したことで、日本人の日常に欠かせないブランドへと進化しました。

ほかにもユニクロにはいくつかのポリシーがあります。まず、欠品を許さない。ユニクロの哲学の1つが、「必要なときにちゃんと在庫がある」ことです。そのため、糸→生地→製品という3段階で発注を管理し、標準的な販売期間である1シーズン(12週間)の間に欠品しないよう徹底した在庫管理をしています。

もう一つユニークなのは、「持たざる経営」です。ユニクロはサプライチェーンや物流も自社で抱えるのではなく、基本的にアウトソーシング(外部委託)しています。生産はコストの低い海外(中国や東南アジア)に任せつつ、品質はしっかり管理します。この「持たざる経営」が、グローバル展開の原動力となっているのです。

ユニクロとザラが売っている「贅沢」

日本のポスト消費システムの進化形であるユニクロを、ヨーロッパ・ファッションの最先端であるザラと対比して考えてみましょう。

ZARAの店舗
写真=iStock.com/tupungato
※写真はイメージです

ザラが提供するのは、かつて富裕層だけが独占していた「時間の先行性」という贅沢です。ザラの服は、それ自体が目的ではなく、パリコレなどのハイエンドな世界観(記号)へ参加するための「チケット」です。最新の流行をわずか3週間で手に入れられることは、かつての上流階級が持っていた「情報の鮮度」を民主化したことを意味します。

坂出健『贅沢と欲望の経営史 あなたはなぜ今日もスタバに行ってしまうのか』(光文社新書)
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ザラの顧客は店内で自分に合うスタイルを「発見」し、自らのセンスで編集します。これは、社会学者・現代思想家のボードリヤールの言う「記号の操作」を楽しむ、能動的で知的な贅沢の形です。「売り切れ御免」の戦略は、手軽な価格でありながら、その瞬間を逃すと手に入らないという「希少性」を演出し、消費体験をドラマチックなものに変えています。

それに対して、ユニクロが提供するのは、かつては高価だった「高品質なベーシック」を誰もが日常的に享受できるという「インフラとしての贅沢」です。ユニクロは服を自己主張の道具(記号)ではなく、生活を支える高品質な「パーツ(部品)」と定義しました。

カシミヤや高品質なアンダーウェアなど、かつては贅沢品だった素材を「圧倒的低価格」で販売し、「生活の質(クオリティ・オブ・ライフ)の底上げ」という贅沢を提供したのです。