インドのジャイシャンカル外相はこれを外交的対話の成果だと評価したが、裏を返せば、海峡の通行をイランに「許可」してもらう立場を、インド自ら受け入れたことになる。
中国に対しては、条件が異なる。イランの高官はCNNに対し、石油の決済を人民元建てにするなら、タンカーのホルムズ海峡通行を限定的に認めることを検討していると明かした。
石油取引はドル決済が主流であり、中国はかねてサウジアラビアに人民元建ての原油取引を持ちかけてきたが、ほとんど進展はなかった。ところが今、封鎖という非常事態を受け、風向きは変わりつつある。ドルの支配力を突き崩したい中国にとって、断る理由のない提案だろう。
こうした個別の取引が成り立つのは、海峡がほぼ完全に封鎖されているからだ。米公共ラジオ放送局のNPRによると、開戦前に1日約130隻が行き交っていたホルムズ海峡を、今は1日6隻足らずしか通過できない。イランの外相は「友好的」な国の船舶には通過を認める一方、敵対国の船舶は排除すると明言している。韓国も「非敵対国」に認定して通行を認めるなど、取り込む国を着実に増やしている。
イランが個別の取引を進めるのは、目先の石油を売りたいためだけではない。影響力を強め、海峡の支配を既成事実化する狙いがあるとも読み取れる。
アメリカが艦隊を派遣できない理由
では、海峡封鎖を解除させるにあたり、どのような策があり得るか。
始めに、軍事力の行使が考えられるが、先例に照らせば慎重にならざるを得ない。米シンクタンクのワシントン近東政策研究所が分析しているのは、1987〜88年にアメリカがクウェートのタンカー護衛のため実施した護送船団作戦「アーネスト・ウィル」だ。
確かに、護衛が付いたことでタンカーへの直接攻撃は抑止された。だがイランはすぐに抜け道を見つけた。秘密裏に機雷を敷設し、護衛が離れたタンカーを港内で攻撃。また、護送対象外の船舶も狙い撃ちにした。
さらに同研究所は、当時と現在では条件が大きく異なると指摘する。当時の作戦に投入されたのは約30隻。米海軍が主要戦闘艦約250隻を擁していた時代の話だ。ところが現在は、約100隻にまで減っている。同じ規模の部隊を編成すれば、現有艦隊の約3分の1を一つの海域に張りつけることになる。
しかも1980年代と異なり、アメリカは今回、交戦の当事者国だ。護送船団を組めば、艦船そのものが攻撃の的になる。イランは対艦ミサイルに加え、射程1600キロ超の攻撃ドローンも保持している。攻撃兵器は迎撃弾よりコストが低いことから、撃ち落とすたびに守る側が消耗する。護衛作戦では一時的な圧力の緩和にしかならない、と同研究所は結んでいる。
護衛に限界がある以上、別の手として考えられるのがカーグ島の占領だ。だがこちらも容易ではない。

