湾岸地域の石油輸出は、もともと約80%がアジア向けだ。調達先を一度に失った輸入国が残る産油国に殺到し、原油価格は世界中で急騰している。

これほどの供給減を、迂回路で補えるのか。アルジャジーラは、「ルート変更も多角化も助けにならない(Rerouting and diversification cannot help)」と報じている。ホルムズ海峡を迂回するサウジアラビアとイラクの代替パイプラインには日量350万〜550万バレルの余力しかなく、喪失量には遠く及ばない。

天然ガスとなれば、なおさらだ。同海峡を通過するLNG(液化天然ガス)は年間1120億立方メートル、世界のLNG貿易量の20%にあたる。それが丸ごと止まった。ほかの供給国もすでにフル稼働に近く、増産で穴を埋める余地はほとんどない。

悠々と輸出を続けるイラン

世界の原油市場が混乱する中、イランの石油産業だけは変わらぬ日常を謳歌しているかのようだ。

米ニュース専門チャンネルのCNNが伝えた複数のデータ分析会社の推計によると、2月28日の紛争開始以降もイランは日量約100万バレルの原油輸出を維持し、輸出量の累計は1200万〜1370万バレルに達した。昨年の平均日量169万バレルには及ばないが、封鎖を仕掛けた側がこれほどの原油を売り続けていること自体が異例だ。

攻撃開始を見越してか、2月にはイラン最大の原油積み出し拠点であるカーグ島からの出荷量を日量204万バレルへ一気に引き上げていた。CNNによると紛争前の1月時点で、約1億7000万バレルものイラン産原油がすでに送り出され、洋上で買い手を待っていたという。

輸出の生命線であるカーグ島の石油インフラは、米軍の空爆を経てなお無傷だ。衛星画像の分析では、同島の原油貯蔵タンクは全55基が損傷を免れており、3月14日時点ではタンカー2隻が計270万バレルの原油を積み込んでいた。

イランのタンカーは西側の制裁をかいくぐるため、位置を自動発信するトランスポンダーを頻繁に切り、偽の位置情報を送出する。3月13日にはカーグ島沖のVLCC(超大型原油タンカー)6隻すべてが位置を偽装しており、実際の出港数はさらに多いとみられる。

ホルムズ海峡の衛星写真
ホルムズ海峡の衛星写真(写真=MODIS Land Rapid Response Team/NASA GSFC/PD NASA/Wikimedia Commons

イランがこれだけの輸出を続けられるのは、アメリカが意図的に手を控えているからだ。

米軍はイラン海軍の大部分を壊滅させたが、イラン原油輸出の約9割を担うカーグ島への攻撃では石油インフラを標的から外し、タンカーの動きを阻止する様子もない。

各国が封鎖で打撃を受けるなか、当のイランだけが石油収入を確保し続けている。痛手を負うのは封鎖された側ばかりだ。この歪みを正さない限り、世界的な石油危機に出口はない。

個別取引に屈したインド

イランはこの状況を、むしろ外交上の武器として利用している。国ごとに異なる取引条件を提示し、対イランで結束させない状況を作り出した。

その典型がインドとの取引だ。CNNによると、インドは拿捕していたイランの石油タンカー3隻を解放した。見返りにイラン側は、液化石油ガスを積んだインド船籍2隻のホルムズ海峡通過を認め、いずれも無事に海峡を抜けた。