公的債務残高は大きな不安要素

もっとも、日本経済の復活シナリオには無視できないリスクがまだ残っている。

最大の懸念は、財政の持続可能性だ。国際通貨基金(IMF)の2025年2月の対日審査によると、公的債務残高はGDP比237%に達し、先進国で群を抜いて高い。

高齢化で医療・介護費は膨らみ続け、利払い負担も重くなる一方だ。2030年頃からは債務比率が再び上昇に転じ、利払い費だけでも2030年までに現在の2倍に達する見通しだ。

債券市場では、こうした財政リスクがすでに織り込まれ始めている。ブルームバーグ(2025年12月26日)によると、長期金利の指標となる10年物国債利回りは2025年12月に2.1%まで上昇し、27年ぶりの高水準をつけた。これだけの債務を抱えたまま歳出を増やし続ける日本に対し、投資家は警戒を強めている。

金融システムも、金利上昇と無縁ではいられない。IMFは銀行収益の増加など全体の底堅さは認めつつも、前回審査時に比べてシステミック・リスク(金融機関の破綻などが経済全体に波及するリスク)はやや高まったと分析する。中小企業の倒産が増え、金利上昇で有価証券の含み損も膨らんでいる。さらには、米ドル調達に伴う外貨エクスポージャー(為替変動リスク)の大きさも見過ごせない。

労働市場にも課題は残る。女性の就業機会は増えたものの、その多くが非正規雇用にとどまる上、男女の賃金格差はいまだOECD平均を上回る。

もっとも、30年間凍りついていた経済が動き始めたのは事実だ。リスクを乗り越え、良い方向への変化を維持できるかが試されている。

「GDPの成長を犠牲に、社会的な安定を得た」

少子高齢化こそ日本経済の起爆剤であるとの逆説は、にわかには信じがたい。果たしてどこまで的を射ているのか。

カリフォルニア大学サンディエゴ校のウリケ・シェーデ教授は、2023年にアジア政策シンクタンクの全米アジア研究局へ寄せた分析で、人口減少とDX(デジタルトランスフォーメーション)が同時に到来することは「ラッキーモーメント」であると論じた。

たしかに生産年齢人口は、現在の7400万人から、2050年には約5000万人へと縮小する見込みだ。だが、ちょうどこの時期に、AI・自動化が実用段階に入った。他国なら「雇用を奪う」と警戒される技術が、人手不足に苦しむ日本ではむしろマッチする。

もっとも、ここに至るまでの助走は長い。ウリケ・シェーデ氏は2025年のGPSニュースへの寄稿で、日本が終身雇用制を段階的に軟化してきた約30年の過程を読み解いている。あえて30年の時間をかけて転職市場を育て、法制度を整え、急激なリストラによる混乱を避けた。「日本は30年分のGDPの成長を犠牲に、社会的な安定を得た」と評している。アメリカ式の性急な再編を行ってしまうと、長い目でコストはかえって高くつくと論じる。

【図表】日本の名目GDPの推移(1994~2025)
出所=内閣府「国民経済計算(GDP統計)」を基にGeminiを使用してプレジデントオンライン編集部作成

「失われた30年」は成長への助走

そもそもGDPの数字だけで、国の豊かさは測れるのか。シェーデ氏は同じ寄稿で、GDPが重視されるのは、「測定可能な唯一の指標だから」にすぎないと指摘する。日本が誇る優れた地下鉄網の資産価値のように、成長率では捉えきれない豊かさがある。「経済成長と社会の安定を両立できる、より優れたシステムが必要だ。日本は(30年を費やした緩やかな変化という)その一つの形を見いだした」と、シェーデ氏はそう結ぶ。

ブルームバーグによると、日本は2025年12月、28年ぶりに基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化の見通しを示した。世界が「失われた」と断じたあの30年は、次の時代への長い助走だったのかもしれない。

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