少子高齢化が生み出したポジティブな連鎖
まず動いたのは、賃金だった。日本銀行の分析によると、正規フルタイム労働者の基本賃金上昇率は1990年代半ばから2022年まで、四半世紀以上にわたって±1%の範囲に収まっていた。コロナ禍後のインフレで、この均衡は崩れた。2025年の春闘では総賃金ベースの賃上げ率が5.25%に達し、34年ぶりの高さとなった。賃上げは中小企業にも広がりつつある。
賃金が動けば、人も動く。事実、同行の分析では正規雇用者の転職が増えており、とりわけ若年層で目立つという。賃上げに対応できない中小企業は廃業や合併に追い込まれ、そこから放出された労働者が、より生産性の高い企業へ吸収されていく。人手不足で賃金が上がり、賃金が上がるから人が動き、人が動くから経済全体の生産性が底上げされていく。
また、労働人口が足りなければ、機械化などの技術で補うしかない。同行によると、宿泊・飲食・小売といった労働集約型の産業を中心に、ソフトウエアへの投資が他セクターを上回る勢いで伸びている。
AIの活用はまだ緒に就いたばかりだが、人手不足が深刻な日本では人間の仕事を奪うのではなく、足りない人手を補うポジティブな立ち位置となりうる。実際、若年失業率は30年ぶりの低水準にあり、働き口不足の傾向は見えない。
女性の労働参加率で米国を逆転
人口減少を受け、働きたい人々がより積極的に機会を見いだせる状況が整いつつある。
中でも注目されるのが、女性の労働参加率だ。日本銀行が2025年8月に公表した分析によると、15〜64歳の女性の労働参加率は同年6月時点で78%に達した。2000年代初頭には約60%だったから、20年余りで18ポイント近く伸びたことになる。
背景として、保育の受け入れ枠が広がり、パートタイム労働者にも社会保険が適用されるようになったことも大きいだろう。
世代別に見れば、変化はいっそう鮮明だ。ハーバード大学のメアリー・C・ブリントン教授は2024年、オーストラリア政策フォーラムのイースト・アジア・フォーラムへの寄稿で、30〜34歳の日本人女性の就業率が2006年の約60%から2023年には80%に跳ね上がったと指摘した。いまやアメリカを上回る。
ブリントン氏は、企業が仕事と家庭の両立を支える制度を拡充したことで、既婚女性が働き続けやすくなったとみる。実際、育児休暇は対象となる母親のうち約80%が取得し、その後職場に復帰している。出産を機にキャリアを離れるのが当然とも受け止められていた時代は、過去のものになりつつある。
高齢者の労働機会も広がりつつある。法改正で企業に65歳までの雇用確保が義務づけられ、70歳までの就業機会の確保も努力義務として課された。65歳以上の労働参加率は、すでに25%を超えた。OECD加盟国のなかで韓国に次ぐ第2位の水準だ。

