働かなくても儲けを出す方法はないのか。ライターの栗下直也さんは「パナソニック創業者の松下幸之助は、『経営の神様』と称えられる一方、実は病弱な体質から生まれた『戦略的サボり』の達人でもあった」という――。

※本稿は、栗下直也『脱力偉人伝――人生サボるが勝ち』(亜紀書房)の一部を再編集したものです。

デスクで頭の後ろで腕を組んで一休みしている男性
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頑張りたくても頑張れない人の道筋

小学生の頃、体育をほとんど見学している同級生がいた。運動がキライなわけでも、親御さんに特別な思想があるわけでもなさそうだった。

もちろん、体操着を忘れ続けたわけでもない。今でも、なんの理由で見学していたかわからないが、冬になるとよく風邪で学校を休んでいたので病弱だったのだろう。

当時、僕らの遊びといえば野球だった。彼は西武ライオンズが好きで「カリブの怪人」と呼ばれたオレステス・デストラーデのバッティングフォームを真似ていたが、実際にバットを振ることはなかった。

野球といっても公園でカラーボールとプラスチックのバットで遊ぶようなレベルだ。それでも彼は参加しない。代わりに審判をやったり、スコアをつけたり、「そこはバントだろ!」と監督気取りで指示を出したりしていた。

ある時、担任の先生がみんなの前で彼を「体は弱いけど、クラスで一番野球に詳しいよね」と褒めた。確かにそうだった。彼は実際にプレーしない分、テレビで試合を見まくり、選手の打率や防御率を全部暗記していた。動けないからこそ、違う形で野球を極めていた。

世の中には頑張りたくても頑張れない人がいる。だが、そういう人ほど、普通とは違う道を見つけるのがうまい。サボりたくないのにサボらざるをえない状況を、むしろ武器に変えてしまう。

「サボること」に価値を見出した経営の神様

そんな逆転の発想は、実は偉人の世界でも同じだ。いや、むしろ偉人の中には、その「サボらざるをえない」状況を「サボることの価値」に転換した者すらいる。

松下幸之助といえば、パナソニック(旧松下電器産業)を一代で築き上げた「経営の神様」として知られる。

パナソニックを一代で築き上げた経営の神様・松下幸之助。大阪府第7回「なにわ賞」受賞、勲一等受章=1972(昭和47)年1月7日撮影
写真提供=共同通信社
パナソニックを一代で築き上げた経営の神様・松下幸之助。大阪府第7回「なにわ賞」受賞、勲一等受章=1972(昭和47)年1月7日撮影

その影響力はいまだに大きく、1968(昭和43)年に刊行された著書『道を開く』(PHP研究所)は21世紀になっても毎年のように重版され、発行部数は累計570万部を超える。

このロングセラーにはいくつも理由はあるだろうが、まず内容が平易で誰でも読め、書いていることに思わずうなずかされるところが大きい。「人間同士の礼を失わない」「人生観と信念を持って人生を生きる」。何も特別なことはいっていないのだが、松下幸之助にいわれると「やっぱり、人生とはそういうものなんだね」と、納得してしまう。いつの時代も何をいうかではなく誰がいうかが重要なのだ。