通勤手当をめぐる「厳しい現実」

やや古いデータだが、労働政策研究・研修機構の13年の調査(※公表は14年だが公的な調査としては最新)では、上限を設定している事業者での平均額は1カ月あたり3万4260円だった模様だ。

一方、実際の通勤手当の支給企業割合や支給額は、2010年から25年にかけて、ほぼ横ばいの水準にある(図表2)。大手民鉄16社とJR東日本を含むJR各社は、2014・19年にも料金改定(値上げ)を行っているが、2015年の支給額が値上げ前の2010年を下回るなど、実績とは必ずしも同調していない。

【図表2】通勤手当支給企業割合・支給額[単位:%、円]
出典=厚生労働省「就労条件総合調査」を筆者加工

この背景に、(a)調査対象者が同一ではない、(b)値上げによって事業者の支給上限額を超えたため上限額以上の支給がなされない、(c)通勤者が運賃の安い経路が使用できる住所に転居した、など相当数の要因が考えられる。それらの一方、通勤手当を増額した報道や調査結果はほとんどみられなかった。

「バス運賃」が追い打ちをかける

筆者も約30年間サラリーマンを経験したが、その間に人事部門から通勤手当増額を通知された記憶はない。本稿記述に先立って、厚生労働省や労働団体を含む複数先に取材を行ったが、ベースアップのデータが相当数みられる一方で、通勤手当に関するデータはいずれも保有していなかった。過去の実情としても要求に盛り込まれることは相対的に少なく、今般の運賃改定に沿って通勤手当の支給額を増額した事業者の数や割合のデータはないようだ。

上記を踏まえれば、かねてからの賃上げ圧力や物価高の中で勃発したイラン戦争の影響も予見され、今回の運賃改定分をそのまま上乗せする事業者はむしろ例外的な比率にとどまるだろう。結果として、上限を超えた分は「自腹」となる。実質的な手取りの減少だ。

今回の料金改定に伴い、JR東日本の最寄り駅から自宅までの経路にバスなどの二次交通を利用し、通勤手当の支給額の上限一杯としていたような通勤者にとっては、手当の支給額を超過する可能性が高まる。あまり報道されていないが、今般の運賃改定に前後して、京浜急行バス(3月18日)、東武バスセントラル(3月28日)、神奈川中央交通(4月4日)などの運賃も値上げされる。これらの動きも、通勤手当上限額との余裕を縮めることになる。