ハーバードはなぜ一人のアスリートに着目したのか――。リーダーシップ論を専門とするフランシス・フライ教授が、大谷翔平の「徳」と「品格」に感銘を受けた理由を語る。

――フライ教授は、リーダーシップ、企業文化、オペレーションの専門家として知られていますが、なぜ今回、ハーバードビジネススクールの教材『大谷翔平:夢を実現する』(原題:“ShoheiOhtani:Achieving the Dream”)を執筆しようと思ったのでしょうか。

私は、現在、野心とレジリエンス(逆境や失敗から立ち直る力)をテーマとした新たな著書を執筆するために、様々な世界のトップリーダーのキャリアや人生について研究しています。

本で紹介すべき事例を探していたところ、2025年、たまたま大谷翔平選手(米ロサンゼルス・ドジャース)の目標実現手法について書かれた記事が目にとまりました。そこには大谷選手が高校1年生のときに書いた「目標達成のためのマンダラチャート」(教育者の原田隆史氏が考案したフォーマットをもとに、大谷選手が当時の目標と64のアクションプランを書き込んだ曼荼羅まんだらのような図)が掲載されていました。

大谷選手が高校1年のときに作成したマンダラチャート
【図表1】

実は私は大谷選手の大ファン。野球の技術だけではなく、人柄においても卓越していることを特に魅力に感じていました。そんな中、この記事を読み、大谷選手の優れた人間性がいかにして形成されたのかを知りました。「これは運命だ。世界中の人々に、この目標実現方法を伝えなければ」――そう思い、早速、ハーバードビジネススクールの教材『大谷翔平:夢を実現する』を執筆することにしたのです。

大谷選手の事例は、27年に出版予定の新刊にも掲載する予定です。バークシャー・ハサウェイ会長のウォーレン・バフェット氏、マイクロソフトCEOのサティア・ナデラ氏、AMDのCEOのリサ・スー氏など世界のトップビジネスリーダーのケースとともに、大々的に紹介するつもりです。

目標は10倍野心的に 実現には「運」「人間性」

――野心とレジリエンスの観点から大谷選手をどのように分析していますか。

一般的に、野心とレジリエンスを併せ持つのは、とても難しいことなのです。逆境から立ち直ることにフォーカスすれば、野心は後回しになってしまう。逆に野心を抱いて、成功することばかりに気をとられてしまうと、レジリエンスは弱まってしまいます。

ところが大谷選手は野心とレジリエンスの両方を持ち続けてきました。それどころか、野心がレジリエンスを強め、レジリエンスが野心を強め、両方をどんどん強化させている。これは極めて稀有な事例です。

大谷選手は現在、メジャーリーグでMVPに選出されるなど、めざましい活躍をしていますが、これまでフル出場できなかったシーズンがいくつもあったのをご存じでしょう。通常、怪我や手術で戦線を離脱すると、本調子に戻るのに時間がかかり、復帰後のシーズンは成績が落ちるものです。ところが大谷選手の場合は、復帰するたびに、メンタルも技術も強化されている印象があります。こんなケースは見たことがありません。

――ハーバードビジネススクールの学生の多くはビジネスの世界でリーダーになることをめざしています。大谷選手の事例からどんなことを学んでほしいですか。

(写真=AP/アフロ)