なぜ大谷翔平選手は前人未到の記録を次々と打ち立てられるのか。そこには「運」を味方につける秘密があった。2000件以上のコメントを分析した臨床スポーツ心理学者が解説する――。

なぜ「自分史上最高」を目指すのか

私は、大谷翔平選手のコメントを2000以上収集し、分析してきました。それによると、大谷選手が運を味方につける思考法を実践していることがよくわかります。その一端をご紹介しましょう。

大前提として強調したいのは、運には自分でいいほうにも悪いほうにも変えられるコントローラブルな運と、自分ではどうにもならないアンコントローラブルな運があることです。ある日突然、雷に打たれる、などというのは、アンコントローラブルな運で、自分ではどうにもなりません。

大谷選手は「日頃、自分で左右できないことは考えないタイプ」だと明言しています。つまり、“自分にコントロールできることだけ”に力を注いでいるのです。これを理解することが、運を引き寄せる思考法を身につけるスタート地点になります。

そのうえで、運を引き寄せるために重要なのが「自己期待」です。運に関する世界的権威であるリチャード・ワイズマン博士は、「自分は運が悪いと思っている人より、運がいいと思っている人のほうが、幸運を引き寄せる可能性が高い」と述べています。博士は、「自分の将来への期待度」を、4つの設問でテストし、「イエス」と答える傾向が強い人は運がいいという調査結果を発表しています。心理学的には、「自己期待」が高い人ほど、「運がいい人」という結果が出ているのです。

【図表】「運がいい人」は「いいことが起こる」と思っている

「できないと決めつけるのは、自分的には嫌でした。ピッチャーができないバッターができないと考えるのも本当に嫌だった。160キロを目標にしたときも、できないと思ったら終わりだと思って、(中略)やってきました」(『野球翔年1 日本編2013-2018 大谷翔平 ロングインタビュー』文藝春秋)

と述べる大谷選手は、「自己期待」が極めて高い人物だと言えます。同時に、こんなことも言っています。

「常に結果は欲しいですよ。(中略)でも、だからといって結果を残さなければというプレッシャーは感じません。僕はピッチングにしろ、バッティングにしろ、自分のかたちをどれだけ高いレベルにできるのかなっていうところに楽しみがあるだけなので……」(同)

高い「自己期待」を持ちながら、他人と競争するのではなく、50%、60%、70%と、自分の潜在能力を引き上げることに特化している。成績に関しては「自分史上最高」を目指すという趣旨の発言を繰り返しています。この点が、他のアスリートとの顕著な違いです。

次に、運を引き寄せるために不可欠な要素が、「やりぬく力」です。シカゴ大学の教育心理学者ベンジャミン・ブルーム博士は、アスリートだけでなく、ピアニスト、彫刻家、数学者など、世界的な名声を得た人々を調査しました。その結果、その分野で一流の仲間入りをするまでには、活動を始めてから10〜17年はかかるという結論を導き出しました。

大谷選手が野球を始めたのは、小学校の3年生の直前の春。一流の仲間入りをしたのは、私の考えでは、北海道日本ハムファイターズに入団し、投手として11勝し、同年に10本塁打を打った2014年のシーズンだと思っています。一流の仲間入りをするまでに、やはり12年かかっているのです。スポーツの世界には哲学に由来する「量質転化」という言葉があります。量をこなさなければ進歩しないし、量をこなせば質が変化するということです。だから、成功するには「やりぬく力」が必要なのです。しかしながら、大谷選手の場合、ぐっと我慢して努力しているイメージはありません。むしろ、面白いことにのめりこんでいるように見えます。誰にでも何かに没入し、気が付くと何時間もたっていたという経験があるのではないでしょうか。そんな対象を見つけることが、運を引き寄せる最短距離だと思います。

(構成=桑原和久 写真=時事通信フォト)