地価は10年で約2倍に

00年代:「食の街」へのシフトに乗り遅れた

2000年代に入ると、街の人気を左右する軸が「ファッション」から「食」へと移行した。インターネットの普及によって「わざわざ足を運ぶ価値」はリアルな体験、なかでも外食に集中するようになった。(参考:『東京ウォーカー CLASSIC 2000’s』KADOKAWA、2018年)。

この時代に注目を集めたのは、中目黒・恵比寿・三軒茶屋といった街だ。代官山はファッションの街として名を馳せた一方、「食の街」としての印象を確立するには至らなかった。

現在:ECと家賃高騰が追い打ちをかける

そして現在、状況はさらに厳しい。ECの急速な普及により、アパレルをはじめとする物販需要はオンラインへと流出し続けている。全国から人を呼び込めるような旗艦店も多いとは言えず、代官山を目的地として選ぶ積極的な理由が薄れている。

代官山駅からアドレス方面に歩いていくと現れる陸橋の落書き
筆者撮影
代官山駅からアドレス方面に歩いていくと現れる陸橋の落書き。2023年にも話題になっていたが、2026年3月現在においても修繕されていない)

加えて、地価・家賃の上昇が重くのしかかる。国土交通省が毎年公表している公示地価によると、代官山駅周辺の平均は2015年の165.7万円から2025年には326.7万円と、約2倍に跳ね上がった。客単価の低い雑貨店が撤退を余儀なくされたのは必然と言える。

「便利になった」はずが、素通りされる街に

見落とせないのが、鉄道ネットワークの変化だ。

2013年、東急東横線は東京メトロ副都心線との相互直通運転を開始し、路線全体の利便性は飛躍的に向上した。すでに直通していたみなとみらい線に加え、西武池袋線・東武東上線とも繋がった。しかし、代官山駅に停車するのは各駅停車のみで、急行・特急は通過する。

乗降者数の推移を見ると、この構図がくっきり浮かんでくる。

【図表1】代官山駅 1日平均乗降人員の推移
東急電鉄「2024年度 駅別乗降人員・輸送人員」をもとに筆者作成

直通開始から10年以上が経過した今も、乗降者数はピーク時を約12%下回ったまま回復していない。路線が便利になったことで、乗客は代官山を「降りる駅」ではなく「通過する駅」として捉えるようになった可能性がある。「ここでしか買えない」という特異点を失った代官山は、わざわざ降りる理由もまた、失いつつあるのだ。