駅周辺に点在する“空きテナント”

フォレストゲートへの違和感を抱えたまま、駅周辺をさらに歩いた。

シャッターが下りたままの店舗、「テナント募集」の紙が貼られた窓――。2023年頃に話題となった「代官山ガラガラ問題」は、完全には解消されていないようだ。例えば、駅の東口から徒歩2分ほどの場所にあるテナントビルは、空室だった。1階から5階まですべて事務所・店舗として募集がかかっていた(2026年3月現在)。

このテナントビルは2021年から2023年まで無料のPCR検査会場として利用されており、それ以前は編み物教室やレンタルスペースが入っていたようだ。

窓には「テナント募集」の貼り紙が多数
筆者撮影
窓には「テナント募集」の貼り紙が多数

そのまま駅東口側の恵比寿方面に進むと、人通りがないわけではない。ただ、往来があるのは「代官山に用事がある人」ではなく、別の目的地へ向かう途中の人が大半という印象だ。

一方、駅から少し離れた細い路地に入ると、今も営業を続ける雑貨店やセレクトショップがひっそりと存在感を放っており、立ち止まって店頭を眺める人の姿もあった。かつて代官山で流行した散策の楽しさは、まだ完全には消えていない。

しかし、駅へと戻るにつれ、その雰囲気は薄れていく。路地の奥ほど見どころがある一方、もっとも利便性が高いはずの駅前にこそ、空きテナントが集まっている。この逆転現象こそが、代官山の変質を象徴している。

なぜ駅前が空くのか

駅前に空きテナントが目立つ理由は、一朝一夕に生まれたものではない。代官山という街の歴史を時系列で追っていくと、その構造的な原因が浮かび上がってくる。

90年代:「代官山で買う」ことに意味があった

1990年代、代官山の人気を支えていたのはファッションだった。『東京ウォーカー』1998年8月25日号の人気タウンランキングによれば、「よく買い物に行くタウン」で8位、「住んでみたいタウン」で9位、総合でも13位にランクインしている。

国内発のアメカジセレクトショップ「ハリウッドランチマーケット」をはじめ、感度の高いブランドが軒を連ね、同誌の紹介文にも「街路地にセンスのいいショップが点在」「雑貨屋めぐりにいい街」と記されている。

当時の代官山には、「ここでしか買えない」という特別な価値があった。代官山に足を運ぶこと自体が、一種のステータスだったのだ。