どうせ取り扱うなら「徹底的に」
これは、今泉社長にとって並々ならぬ決断だったと思います。父の代から「最大手メーカーの商品がなくても成り立つような文具業界をつくっていきたい」という信念を抱き、自身も一生涯をかけてその実現に身を砕いてきたのですから。その最大手メーカーの商品をアスクルで扱うことは、自分の人生を否定することだといっても大袈裟ではありません。
一方で、今泉社長は毎日、アスクルの事業部を訪れては、「今日の注文はどうだった?」とたずねて、注文が増えたことをともに喜んでくれました。そうして事業が成長する姿を見ながら、プラスもアスクルも成長させるために決断したのだと思います。
ライバルメーカーの商品を売るといっても、反対派を気にして中途半端に扱うようでは、お客様に喜んでいただけません。必要と思われる商品を徹底的に品揃えしました。
「これまでの小売店との関係が悪化する」「安売りされるのはイヤだ」と、アスクルに商品を卸すのを嫌がるメーカーさんもありましたが、その場合は、ホームセンターなどで売っている商品を購入して販売しました。当然、それでは利益は出ませんが、お客様に喜んでいただくには徹底してやらなければならないと考えました。
たった6年で2億から470億円超へ
もしこれが失敗して、他社製品ばかりが売れれば、私は会社にいられなくなるでしょう。そうした重圧を感じながらも、他社商品を本気で品揃えしたことが、アスクルの成長の大きな要因となりました。
アスクルの売上高は、1994年の2億円から、1995年は6億円、1996年は19億円、1997年は56億円、1998年は106億円、1999年は226億円、2000年に471億円と、倍々で伸びていきました。それに応じて、プラス製品の売上も伸びていきました。
今振り返ると、自社の商品を売るためのプラットフォームを活性化するために他社の商品を売るのは、当然のことかもしれません。
たとえば、コンビニエンスストアやスーパーマーケットに行って、PB(プライベートブランド)商品しか置いていなければ、あまり魅力的とは感じないでしょう。さまざまなメーカーさんの商品を扱っているからこそ、お客様が集まります。
Netflixも、いくら自社で制作した作品が面白くても、だからといって他社が制作した作品を観られなくしていれば、世界で3億人を超える加入者を集められたでしょうか。さまざまな他社の作品も観られるからこそ、加入者を増やせたのではないかと思います。
短期的には敵に塩を送る行為だとしても、長期的に見れば、そのほうが自社の売上や利益が増えるのです。
ちなみに、アスクルの躍進を見て、他の文具メーカーも同様の通販事業に乗り出しましたが、自社商品を優先して販売していました。アスクルほどの成長ができなかった要因のひとつは、そこにあったと考えています。



