世界トップクラスの研究者が、東京大学から香港科技大学に移籍した。高額年収だけでなく、研究室立ち上げに1億円の研究費が提示されたという。日本と海外の大学で、ここまで大きな差がつくのはなぜなのか。日本のアカデミズムの構造的な問題を、西田・安田両氏が語り合う――。
写真=iStock.com
渡辺悠樹氏が移籍した香港科技大学(HKUST)のキャンパス。2026年のQS世界大学ランキングでは44位にランクイン。同36位の東大に並ぶアジアのトップ校の一つ。

クビにはならないから平然とサボる教授もいる

【西田】今回は僕らの普段の仕事とも関係の深い話題です。テーマはずばり「日本の研究者はなぜ稼げないのか?」。

【安田】東京大学の渡辺悠樹はるき准教授が、香港科技大学に転じたという日経サイエンス誌の報道が話題になりました。渡辺准教授は量子物性理論の分野での中堅世代で、世界的にも10本の指に入ると言われるほどの研究者です。

【西田】特に注目を集めたのが待遇の差。東大ではポストに空きがなかった教授になり、年額で約1000万円だった給料も3倍になったと。手当なども含めた総額とはいえ、およそ3000万円と言われています。

【安田】国内の研究者の待遇について考えると、業績があって海外からも引く手あまたの人にとっては、現状の給料は安すぎるとは思います。渡辺さんクラスの実績を持つ方であれば、海外では4000万~5000万円の給与をもらっていても全く不思議ではない。

【西田】とはいえ、このニュースだけを聞いて「海外の大学は日本よりも待遇がいい。だから、日本の頭脳が流出してしまうんだ」と騒ぎ立てるのは、少し短絡的だと思います。日本と海外では、研究者の処遇の仕組みがそもそも異なります。円安も影響します。

【安田】確かに。一概に「研究者は給料が安い」とも言えないのが難しいところです。日本と海外の違うところを一つ挙げると、日本では研究業績や授業の能力に関係なく、先生たちの給料がほぼ変わらないことですかね。国立大や公立大の教員は基本的に「みなし公務員」と呼ばれていて、公務員の給料の何級何号俸というのに準拠している。年齢や職位が上がると、徐々に給料が上がっていきます。

【西田】研究大学を中心に制度を変えようとはしているんですけどね。僕が今勤めている私立大学は年功序列で面白みがありませんが、以前に勤めていた東京工業大学(現・東京科学大学)は査定によって同期でもかなり差がついていました。文部科学省が2019年に業績評価を給与に反映する年俸制を導入するよう旗を振った。その影響を受けているのでしょう。マイナス査定もあるんですよ。

【安田】西田さんのお話は意外ですね。自分は大阪大学や政策研究大学院大学を経験していますが、東工大のような査定は、当時ではかなりレアケースではないでしょうか。通常、一度テニュア(終身在職権)を取ると原則大学からはクビにできないので、平然とサボっているような研究者も確実にいる。この構造がモラルハザードの温床になっている面も否定できません。

【西田】安田さんは、確か20代の頃からテニュアだったんですよね?

【安田】流石にそんなことはありません。最初はテニュアトラックという立場で、5~6年間は任期が保障されているけれど、終わり際に業績審査を受けて、それにパスすればテニュアを取れるというポジションでした。

(構成=稲泉 連 撮影=大槻純一)

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