「北方領土方式」という戦争の終わらせ方
――非常に難しい、一歩間違えたら奈落に落ちる綱渡りを想像してしまいます。ウクライナ戦争はどのように終結し得るのでしょうか。
【細谷】戦争終結時の最大の焦点になるのが、領土の問題です。ロシアはウクライナの領土を自国の領土であると憲法に組み込んでしまいましたし、ウクライナがそうしたロシアの主張を覆せるほどに戦況を転換できるかと言えば、これはかなり難しい。欧米が軍事介入する可能性もかなり低いでしょう。
現状のまま戦線が硬直すると、ウクライナは一定程度の領土を失わなければならない状況になります。となった場合、実は難しいのはウクライナ側で、彼らも国内でナショナリズムが高まっている。
ではどうすればいいのか。一つ考えられるのは、いわゆる北方領土方式です。
国際政治学者の高坂正堯先生は、国際社会には力・利益・価値の三つの体系があると述べました。戦後の日ソ・日露関係において、力の論理で言えばロシアが強い。しかし価値の論理で言えば、国際社会におけるルールや規範が損なわれてはいけない。その二つの規範に悩まされてきた日本は、北方領土を奪われながら、ソ連への武力攻撃により、力で取り返そうとはしませんでした。しかし、法の正義の論理、価値の論理から、「北方四島は日本に帰属する」という正当性では譲歩していません。
日本も80年、国境線を引き直さないまま、一つの日露間の火種として残っています。スッキリ解決とはいきませんが、戦争とはそういった火種を残すものでもあるのでしょう。だとすれば、一時的に紛争を解決し、平和的交渉が可能になる機が熟するのを待つということもあるかと思います。
今なら第三次世界大戦を止められる
――中東もぐらついていますし、日本としては台湾有事も心配です。ロシアがさらにウクライナの先へ侵攻していく可能性もゼロではありません。より大きな世界戦争に発展する可能性もあるのでしょうか。
【細谷】「第三次世界大戦は、この段階であれば今はまだ止めることができる」というのが、私が『危機の三十年』に込めたメッセージです。歴史の潮流の揺り戻しがあったときに、大国同士の衝突が起きる。世界戦争になってしまう可能性がある。これが過去の歴史のサイクルを見た際の現実です。
本書を10年後に読み返したときに、「確かに止められたな」と感じることになるのか、「止めることができなかった」と感じることになるのか。戦争が起きても起きなくても、ほころびつつある国際秩序を新たに組み直す必要に迫られていることに違いはありません。それが戦争によってもたらされるのか、そうでない方法になるか、現状ではどちらの可能性もあると思っています。
私たちは人類が過去の教訓から三度目の世界戦争を起こさないために、何ができるのかを考え、できる限りのことをやらなければなりません。



