日本が70年かけて築いた外交資産
最初の手札は、70年以上かけて築いた確固たる外交関係だ。その原点は1953年の日章丸事件にまでさかのぼる。
当時、イギリスがイランの石油国有化に反発し、国際的な禁輸運動を主導。そんな中、石油元売り大手・出光興産のタンカー「日章丸」がペルシャ湾に向かい、イラン産原油を買い付けた。
こうして中東との独自の対話ルートを切り開き、その後の強力な日本・イラン関係の礎となった。
時代は下り、約70年かけて築かれた対話チャンネルに危機が訪れたことがある。2018年5月、アメリカがイラン核合意から離脱し同年秋に制裁を再発動すると、両国の対立が先鋭化した。
制裁のさなか、イランのロウハーニー大統領(当時)は日本に対し、原油を継続して購入するよう持ちかけた。米ビジネス誌のフォーチュンは、アメリカの同盟国である日本としては板挟みの状況だったと指摘。結果としては、一貫して制裁を遵守した。
だが、それと同時に、安倍晋三首相(当時)は2019年6月、日本の首脳として41年ぶりにテヘランを訪問している。こうして、アメリカとの同盟を守りながら、イランとの対話も絶やさない外交スタイルを鮮明にアピールした。
この姿勢は現政権にも引き継がれている。高市首相は2026年3月の衆院予算委員会で、「イランの核兵器開発は断じて容認できない」と明言しつつも、アメリカとイスラエルが進める軍事作戦への明確な賛否は避け、外交ルートでの解決を求めるにとどめた。
ディプロマットは日本の特異な立場に注目する。アメリカにとってアジアで最も緊密な条約同盟国でありながら、イランとも歴史的に友好関係を保ってきた特殊な立ち位置の国だ。
3月19日に控えるトランプ大統領との首脳会談を前に、同盟国としての結束を損なわずに対話の回路も残す、慎重な判断だったと同誌は分析している。
法制面では「存立危機事態」条項の備え
外交に加えて、法制面での備えもある。対中関係で話題となった「存立危機事態」条項が、中東情勢でも活用できるとする見方だ。
2015年の安保法制審議で、安倍首相(当時)は、ホルムズ海峡の機雷封鎖を国会で取り上げた。密接な関係にある他国への武力攻撃で日本の存立が根底から脅かされる「存立危機事態」にあたるとし、日本が直接攻撃されていなくても集団的自衛権を行使できる具体例であると示した。
日本国憲法は国外での武力行使を原則として禁じているが、ホルムズ海峡での機雷掃海は、この地理的制限の下で政府が唯一認めた例外だと、米安全保障法政策メディアのローフェアは指摘する。船舶の安全航行を確保するための「必要最小限度の実力行使」に該当するとの解釈だ。
